シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 うん、と頷くのは簡単だ。
 けれど、そんな事はできない。

 煮えきらない私に、慧悟さんは続けた。

「希幸がフランスに行ってからも、ずっと待ってたんだ。いつかきっと、僕の元に戻ってきてくれるって。でも、母と父に結婚を急かされた。彩寧との結納は、タイムリミットまで待ってもらったんだよ。今更何を言っても言い訳だけれど」

 慧悟さんの想いを、私は受け止められない。
 受け取ってはいけない。
 だから涙が溢れるのに、慧悟さんは続ける。

「でも、そうやって結納を済ませた後に希幸が僕の前に現れて……。色々なことをすっ飛ばしてでも、どうしても希幸を僕のものにしたくなった。希幸がどこかに行ってしまう前に、僕のものである証を希幸に刻みたかったんだ。だから、僕は今とても嬉しい」

「私は、全然――」

 嬉しくない、とは言えなくて言葉を飲み込んだ。味のないはずの唾が苦くて、えずいてしまいそうになる。
 握りしめた拳は、慧悟さんの服を掴んだりはできない。
 私に、彼に甘える資格はない。
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