年上幼馴染の一途な執着愛

忘れてくれよ

「なあ、夕姫」

「ん?」


あの後、私が胸の高鳴りに耐えられなくて無理矢理手を解いた。
日向は残念そうにしていたけど、今度は少しの距離をあけながら駅前を通り、ぐるりと回って元の道に戻る。
もう一度視界に入る雪だるまを眺めながら歩いていると、


「聞いてもいいか?」


と日向が正面を向いたまま声をかけてきた。


「なにを?」

「……どうして、彼氏と別れたんだ?」

「……あぁ、それ」

「星夜から聞いてたんだ。結婚の話も出てたって」

「はは、そういえば浮かれてそんな話したかも」


幼馴染だからか、お兄ちゃんは昔から日向にだけ口が軽くなる。
いつだか電話でそんな話をした覚えがあるから、すぐに日向にも話したのだろう。


「私ね、二股かけられてたの」

「は?」

「ていうか、私の方が浮気相手だったんだって。酷いと思わない?」


へらりと笑えば、日向の表情は悲痛に歪む。


「やめてよ、日向がそんな顔しないでよ。もっと虚しくなる」

「だってお前……」

「いいの。気付かなかった私が悪いんだ。友達に教えてもらったの。私以外の女の人と歩いてるとこ見たって。それで、問い詰めたら認めた。"お前が浮気相手だ"って。"もうお前いらね"って。……自分が浮気相手だとも思わずに結婚の口約束に浮かれてたのが馬鹿みたい……」

「……ごめん。つらいこと思い出させた」

「ううん。いいの」


強がるけど、思い出したらまた泣きそうになってしまう。


「それがついこの間のこと。それで、しんどくてやっぱり一人じゃ寂しくて。気がついたら東京駅にいた。偶然新幹線のチケットのキャンセルが出てたみたいで、すぐ買って、飛び乗ってきたの」

「夕姫……」


だけど、少しだけでも言葉にして話したら気持ちが楽になったような気がした。


「ごめんね、新年早々暗い話で。……そろそろ帰ろうか。家でみかん食べよ。お母さんが箱買いしてたやつあったから」


無理矢理笑顔を作ると、再びぐいっと腕を引かれて。
気が付けば日向の胸の中にすっぽりと身体がおさまっていた。
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