【完結】養ってやるかぁ!!公園で出逢った無職男子が……まさかまさかの、そのまさか!?

 雪子の言葉に驚く始。

「雪子さんが俺に……? どうして?」

「だって……貴方を私は……御曹司のあなたに……お味噌汁を作らせて……」

「はい! 今、時間があったので味噌汁とおにぎりを俺が作りました。豆腐だけの味噌汁なんですが、一緒に食べましょう。温まりますよ」

 泣きそうな雪子に、始は微笑む。

「そ、そんな事を貴方にさせて! 許されるわけないじゃない! 私は……なんてことしちゃったのよ!」

「なぜです? 貴女は俺に色んなことを教えてくれた。俺はそんな事も自分でやった事もない、生活もできない男で恥ずかしいと改めて思いました」

「か、からかっているの?」

「からかう? 俺は今日、両親に結婚すると決めた女性を見つけたと報告してきました」

「け……けっこ……ん?」

「順を追うつもりでしたが、からかっていると思われては元も子もない。雪子さん、俺は貴女が好きです、心から貴女が好きです」

「……はじめ……くん」

「俺の傍にいてください、雪子さん……」

「……そんな……」

 ふらりと脱力してしまう身体を、始が優しく抱きとめた。

「ゆっくりで、いいです。少しずつ俺の話を聞いてください」

「……話……ゆっくり……」

「そう、だから今は逃げないで……帰るなんて言わないでください」

 優しい言葉と優しく背中を撫でる大きな手。
 雪子は頷いた。
 始もふぅーと安心した息を吐く。

「雪子さん……さぁ、今は誰もいませんから、リラックスして」

「うん……わかったわ……」

 広い廊下を、手を繋いで歩く。
 夜景を見下ろす、最上階のガラス張りのリビング。
 勝ち組企業系がパーティーをしているような場所……と雪子は思う。
 ここだけで、雪子の部屋が二つは入ってしまいそうだ。

「雪子さんがお風呂に入ってる間に、作ったおにぎり。雪子さんの好きな、梅しそふりかけです。こっちで食べましょうか」

 上質な革張りのローソファーに、大きなローテーブル。
 真ん中には綺麗な花が飾られている。

 そこに始がまずお盆に載せたおにぎりと、味噌汁を持ってきた。
 三角の梅しそおにぎりが、二つずつ。
 お味噌汁はほわほわと、湯気が立っている。
 上質な漆塗りの器に、美しい螺鈿細工の箸。

「こちらもせっかく用意してくれていたので……是非食べてくださいね」

 ハウスキーパーが用意したと思われるきんぴらごぼうや山芋の梅肉和え、ブリの照焼などは料亭の料理のようだ。
 
「始くん……ごめんね」

「え? どうして?」

「こんな……安いふりかけのおにぎり……教えてごめんね」

 始が食べた時に美味しい! と驚いた顔を思い出す。
 
「どうしてですか? 俺、すごく感動したんですよ。こんなに美味いふりかけがこの値段で買えるんだって! これって美味しさと、安さを追求した人達の優しさと研究成果の結晶じゃないですか。恥ずかしいだなんて、思わない。むしろ尊敬します」

「……そうだね……ふりかけは恥ずかしくないよ……恥ずかしいのは私だ……」

 無職で貧乏で惨めだと思ってるのは自分自身。
 情けなくて、涙が出そうになる。

「雪子さん……恥ずかしいことなんか何もありません。まずはお腹いっぱいにしましょうよ。お腹が空いたら元気も出ませんよ」

「ん……そうだね……ありがとう」

 雪子も自分が卑屈になっている事を感じる。
 そういえば、今日は何も食べていないのだ。

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