花咲くように 微笑んで
「菜乃花ちゃーん!」
「有希さん!お久しぶりです」
「本当にね。やっと会えたわ」

4月のある日。
ようやく体調が安定した有希と一緒に、菜乃花はカフェに来ていた。

「赤ちゃんの様子はいかがですか?」
「うん、順調だって。仕事も復帰していいって言われたんだけど、春樹がダメって言うの」
「ふふ、心配なんですよ、先輩」
「まあね。でも私は毎日退屈で…。菜乃花ちゃんに会えるの、とっても楽しみにしてたの。今日はいっぱいおしゃべりにつき合ってくれる?」
「はい、もちろん」
「ありがとう!」

美味しいランチを食べながら、しばらく赤ちゃんの話を聞いていた菜乃花は、逆に有希に質問される。

「菜乃花ちゃんは?最近どう?」
「特に変わりないですよ」
「春樹が、颯真先生の病院に菜乃花ちゃんがボランティアに行ってるらしいって言ってたけど」
「あ、ええ。そうなんです。仕事が休みの日に、子ども達に絵本の読み聞かせをしたり、本を貸し出したりしています」
「へえ。ってことは菜乃花ちゃん、颯真先生といい感じにおつき合いしてるってこと?」
「いい感じのおつき合い?はあ、まあそう言われるとそうですね」
「えっ、そうなんだ!きゃー、素敵!結婚の話はまだ?」
「結婚の話ですか?別の先生との結婚の話を今ちょうど考えているところでして」
「は?!」

有希は、素っ頓狂な声を出したまま動かなくなる。

「有希さん?どうしました?大変!どこか体調が?!」
「い、いいえ。大丈夫よ。大丈夫だけど、いや、やっぱり大丈夫じゃないわね。菜乃花ちゃん、一体何がどうなってるの?私もう、頭の中がフリーズしちゃって…」
「何がどうとは?」
「だって菜乃花ちゃん、どう見たって純情一途なタイプでしょ?それなのにまさか、別の先生との結婚を考えてるなんて。私の後輩の、マンスリー彼氏の子だったら分かるわよ?でも菜乃花ちゃんが、どうしてそんな…」
「どうしてと言われましても、考えて欲しいって頼まれたので…」
「は?!頼まれた?」

またしても有希は上ずった声で聞く。

「ちょ、ちょっと菜乃花ちゃん。詳しく教えてくれる?結婚を考えて欲しいって言われたの?誰に?」
「ボランティア先の小児科の三浦先生って方です」
「ヒーー!ライバル出現じゃないの!ど、どんなふうに言われたの?そもそも、菜乃花ちゃんはその先生とつき合ってたの?告白はいつ?」
「ゆ、有希さん。落ち着いて。赤ちゃんに障ります」
「落ち着いていられないわ。お願い、菜乃花ちゃん。詳しく教えて!」
「分かりました。分かりましたから、とにかく一旦落ち着きましょう」
「そ、そうね」

有希はグラスの水を飲んでから、ふうと大きく息をつく。
菜乃花は、三浦とのいきさつを有希に話した。

「はあー、信じられない。そんなプロポーズってあるんだ」
「プロポーズ?!これってプロポーズなんですか?」

今度は菜乃花が驚きの声を上げる。

「どこからどう聞いてもプロポーズでしょう?結婚して欲しいって言われたんだから」
「そうなんですね。私、プロポーズって恋人からされるものだと思ってました」
「いや、うん。私もそう思ってた。でもそんなこともあるのねえ。そっか、小児科のドクターだもん。きっと子ども好きなんでしょうね。誰かに告白されてもつき合うのが想像出来ずに断っていたけど、菜乃花ちゃんを見ていたら、一緒に子どもを育てたいと将来を夢見るようになった、って訳ね。なるほど、それはかなり本気ね。履歴書渡そうか?なんて、おいおいバイトの面接かよって思ったけど、それだけ真面目な先生なのかもね」

うんうんと有希は腕を組んで頷く。

「それで、どうするの?菜乃花ちゃん」
「えっと、実はまだ考え中でして。結婚とか考えたことなかったので、どうしたものかなと」
「え?ってことは、イエスって答えも想定してるの?」
「それは、まあ。考えて欲しいと言われましたので、お引き受けしたらどうなるのかなって」
「嘘でしょう?!大変!あー、もう、どうしたらいいの?」
「そんな、有希さんのお手を煩わせることはしませんので」
「そういう問題じゃないの。菜乃花ちゃん、いつ頃お返事するつもりなの?」
「うーん、特に締め切りは言われてなかったと思うんですよね」
「締め切りってそんな、あはは!いや、笑ってる場合じゃないわ。菜乃花ちゃん。ちょっと、とにかくもうちょっとお返事は待って。ね?ね?」
「はあ…」

有希に前のめりに念を押され、菜乃花は取り敢えず頷いた。
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