二人の永遠がこの世界になくても
今すぐに君に逢いたい。
これが一生で最後の願いになったとしても、今すぐに君の元へと帰りたい。

修行に行った先の動きをしばらく観察しなければいけなくなった機関は、毎日決まった時間にヨヅキの動きを追っていた。
すごく罪悪感があったけれどヨヅキの生活を見守ることができて嬉しかった。

俺を忘れてしまっても、この体の中には君の遺伝子が流れている。
二度と逢えなくてもヨヅキを愛した時間は嘘じゃない。

「夜月ー!?どうしたー?」

覗き込んだモニターの中。不鮮明な君が微笑んだ。

「私、会いたい人が居る気がする。すっごく遠い未来で」

「はぁ?何言ってんの?アニメかなんかの話?」

「なんだろ。なんか浸っちゃった。桜がすごく綺麗だったから」

ヨヅキとお別れした日から、ふと記憶のカケラを辿るような言葉にドキリとすることもある。

″失敗したんじゃないか?″
そんな空気が一瞬ラボには流れるけれど、君はちゃんと俺を忘れていてラボは安心していたし、俺は心の中で″失敗していてもいい。俺を思い出して″と何度も願っていた。

この世界では俺はもう劣等生ではなくなった。
研究も機関の運営も順調で、俺が修行に行ったことさえも機関の発展の為に研究材料として扱われている。

もう一度ヨヅキに会いたいと願えばどうなるんだろう。
あの子の願いはもう叶えられないから、一生俺を忘れない。

でも機関はきっと、そんな願いはもう聞き入れてはくれないだろう。
だったらヨヅキがちゃんと俺を忘れられて良かったなって思うんだ。

俺は君を忘れない。
忘れないまま、遺伝子の感情を超えた想いを抱き続けることは苦しい。

あの世界には俺が居た証拠なんて無い。
証拠になる物は俺の記憶だけだ。

もう一度ヨヅキの声で聞きたいよ。

俺の名前を呼ぶ声を。
好きだよって言う時の泣き出しそうな声を。

「私、会いたい人が居る気がする。すっごく遠い未来で」

今、ヨヅキの声が発したこの言葉を、モニターを何度も何度も逆再生させて細胞に刻む。

「リーダー!」

「シュンカ!あんたまだ居たの!?指令でしょ!」

「ねー、リーダー、この部分、俺の体に取り込めない?」

「はぁ?何言ってんの、気持ちわる」

「ダメかなぁ?これしたらさ、いつか叶いそうじゃん。おまじないみたいに」

″おまじない″
その言葉にリーダーは振り向いて、ニッて笑って俺を見た。

もうすぐ俺は十六歳になる。
また君との差が一つ、埋められるね。


「二人の永遠がこの世界になくても」 完.
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