二人の永遠がこの世界になくても
「俺はさ、ダメ人間なんだ」

春華が呟いた。
私に聞かせるつもりなのか独り言なのか分からないくらい小さい声で、だからよく注意して聞いていないと、聞き逃しそうなくらい、小さい声だった。

春華の声変わりしていない声が、少女が泣いているみたいに聞こえた。

「ダメ…って?」

「俺はさ、千年後の世界で“劣等生”のレッテルを貼られて生きてる」

「なんで?」

「ヨヅキはキョウダイって居る?」

「うん。お姉ちゃんが居るよ。二つ上なんだけどデキ婚して、今は県外で暮らしてる。姪っ子も六月に産まれたばっかりだからまだ会えてないんだけどね」

「そっか。俺には家族って居ないんだ」

「家族が、居ない?」

「うん。ちょうど西暦二千五百年くらいだったっけな。“家族”っていうサークルは廃止された。最初はどこかの国が始めたんだけど、日本もそのうち廃止になって、俺達の時代には“家族”ってなんだったんだろう、“家族”が居た時代の人達はどんな感情で暮らしてたんだろうって不思議なことばっかりだった」

「そんな…じゃあ人間はどうやって産まれるの?」

「機械だよ。子どもを作る専門職の人達が居て、国家資格なんだけどさ…子どもを生成する為のラボが世界中にあるんだ。そこで特殊な技術で、薬品とか装置の中で産まれるんだ」

「それって…人間なの…?」

「人間だよ。二十歳以上になったら遺伝子の提供が義務付けられて、政府から通知が来たらラボに提供するんだ。それが完全凍結されて使われる。ただし、誰にどの遺伝子が使われたかは重要機密。産まれた子ども達はしばらく政府の施設で暮らして、十歳頃には…ここで言うマンションみたいな部屋が一人ずつ与えられる。もっと大人になって自分だけの家が欲しいならそれは自由だよ」

「じゃあ私が一生懸命言ってた、春華の親に連絡しなきゃっていうのは無意味なことだったの?」

「そうだね。連絡するとしたら“上の者”」

上の者。その言葉を聞いて、初めて一つだけ腑に落ちたことがある。

春華は冬休みまで学校を休むって、“上の者に伝えておきます”って言った。

本当に家族なんかじゃなくて、“上の者”、春華の世界でいう上司か何かの存在のことだったんだ。
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