守ってくれて、ありがとう

守ってくれて、ありがとう

「守ってくれて、ありがとう」                           椎名のん

―ずっと、ありがとう
守ってくれてありがとう
傍にいてくれて、ありがとう
あなたの横に、ずっとおりたい。
私の、いつまでの願い・・・・・。

―1章「川村夏海という名の少女」

―14歳の時、いろんなことに対して悩みを抱いていた。自分の性格や、短所、そして、進路や、恋。たくさんのことに対して悩みを抱いていた。14歳の夏、私は、毎日を淡々と過ごしていた。

〈ザザッ〉
さざ波の音が、部屋からよく聞こえる。愛媛県 A島。そこに、川村夏海という14歳の女の子が住んでいた。夏海は、母の真由子からのおさがりのギターで、曲を作っていた。

「~~♪」
夕日が部屋のカーテンの隙間から差し込んできた。夏海は、好きな音楽のCDを、流しながら、そして口ずさんでいた。夏海は、そして、そばに置いてあるYAMAHAのギターを取り、お腹のあたりに抱え、曲を弾き始めた。夏海は、夢中になりながら、それらの歌手の曲をカバーし始めた。夏海は、本当に音楽が大好きであった。音楽が大好きで、そして、将来音楽関係の仕事に就きたいとも思っていた。空は茜色に染まり、夏海は、光が丘海岸の海が本当に大好きであった。愛していた。すると、家の受話器から電話がかかってきた。
母の真由子からだった。
「なっちゃん」
「ん?」
「今日、スナックの仕事に行くけん、夜遅くなるんよー。玄関の鍵のチェーン、はずしとってよー」
「おーけー」
母の真由子は、32歳。18歳の時に、夏海を産んだ。真由子は、今はよく話すが、本人曰く、昔は真面目な大人しい感じの女の子だったんよーと言っていた。ほんとか?と、内心思うこともあった。夏海は、もっと自分がしっかりしてたら、母に苦労させることないのに、と、母に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。夏海は、自分自身に少しイラつきはじめ、それを吹っ飛ばそうと、またギターを弾きながら歌を歌い始めた。
「~~~~♪」
夏海は、母と2人暮らし。シングルマザーの家庭で育った。夏海の父は、夏海が産まれた時に、交通事故でこの世を去った。夏海は、今、夏休み。部活に入っていないので、部屋で勉強をしながら、ギターで曲を作っていた。この時間が、とてつもなく幸せだった。すると、家の受話器が鳴った。夏海が出ると・・・・健太からの電話だった。
「もしもし~」
「ん、健太?」
「あ、川村。あのさ、今からお前ん家行っていい?」

山村健太、14歳。夏海の幼馴染でもあり、好きな人。夏海は、どんどんかっこよくなっていく健太に恋焦がれていた。

健太、また声低くなった?と、夏海は電話越しで思った。夏海は健太に対してぶっきらぼうな態度を取った。
「いけん。今から夕ご飯作るけん」
「はー?(笑)ち、英語の宿題見せてもらおうと思ったのに―――。」
「自分でしろや。ばーか」
「はい、そうですかー」
「ばっかやないん――」
夏海は、電話の受話器を置いた。最近、健太と話すと喧嘩ばかり。でも、夏海は、どんどんかっこよくなる健太に恋をしていた。健太が、他の女の子と付き合ったら、と思うと、気持ちが苦しくなっていた。健太に自分のことを見てほしい、何度も何度も思った。夏海は、小さな棚の上に置いている幼馴染4人での2ショット、愛・達也・健太・夏海、4人での写真を夏海は、右手で持ち、写真に写っている健太をそっとなぞった。
(健太・・・・・・・・・。)
夏海は、ますます健太への想いが加速していた。どこにいても健太のことを考えてしまっていた。こんなにも、人を好きになったのは、初めてだった。夏海は、ふと、部屋から見える海を見た。A島の海は、色あせることなく、いつまでも、輝いていた。夏海は、小さい頃、母の真由子から、‘お父ちゃんとね、高校生の時、光が丘海岸の海で、よくデートしたんよ。お父ちゃんに、高校2年の夏やったかな?好きだ、って告白された。場所は、光が丘海岸なんよ~。ほやけん、お母ちゃんね、光が丘海岸の海を見るたびに、お父ちゃんを思い出すんよ。ま、思い出さん日なんか、ねーけどね’と、当時3歳だった夏海に、真由子はそう話した。夏海の家は、貧乏だ。家賃2万円で、母は週5のスーパーのバイトと、夜のスナックで働いている。でも、真由子は、疲れた顔1つ見せず、朝、学校に行く夏海に、‘行ってらっしゃい~’と、片手に煙草を持って、笑顔で見送ってくれる。夏海は、そんな母の真由子を、尊敬して、そして、1人の母親として、愛していた。夏海は、‘もし、父ちゃんが生きてたら・・・。’思ったこともあった。夏海が、感極まりそうになり、夕飯で、焼きそばを作り始めた。夏海は、その日夢を見た。

夢の中で見た場所は、冬の光が丘海岸だった。
〈和樹・・・・・お腹の赤ちゃん、すくすく育ってるって・・・・。産婦人科の先生が言いよったよ〉
〈・・・・・・・真由子、俺、真由子と生きていきたい〉
〈和樹・・・・・・私もよ・・・・。〉
〈真由子、俺の子供、産んでくれ。一緒に育てていこ〉
〈和樹・・・・・・さっき産婦人科行ったら、赤ちゃんね、元気に動いてたよ。和樹、和樹と、ほんでこの子と生きていきたい。〉
〈俺も・・・・・・・愛してる〉
〈・・・・・か・・・ずき。大変なこと、これからもあると思うけど、2人で乗り越えよ・・・〉
光が丘海岸と思う場所で、和樹は、そっと真由子を抱きしめた。
〈元気に生まれてこいよー。なつみ。〉

まだ、夜中の2時。夏海は、うなされ、そして、目が覚めた。

―はっ

夏海は目覚めた。まだ、夜中の2時だった。夏海は、なんか不思議な夢を見た気がした。そして、夏海の目からは1粒の涙が溢れてきた。父の和樹。和樹は交通事故にあい、18という若さでこの世を去った、と母の真由子から聞いた。和樹が病室でこの世を去った時、死んでしまおうか、と、母の真由子は、何度も思ったと、聞いたことがあった。‘お前、父ちゃんおらんの?’と、小さい頃、保育園で虐めにあったこともあった。夏海は、感情が溢れだしそうになり、布団の中で、息を殺しながら泣いていた。夏海の涙が、雫となり、枕が涙で濡れた。次の日の朝、夏海は、真由子と、昨日の夜ごはんの残りの、焼きそばを2人で食べていた。

「なっちゃん」
「ん?」
「なっちゃんの焼きそば美味しいー。和樹もよく、若い時やけど、焼きそば、よー焼いてくれたで。」
「へー」
「でね、和樹の部屋で、よく、焼きそば食いよったよ」

夏海は、昨日見た夢のことを、話し出しそうになったが、やめた。真由子に辛い思いさせるのは嫌だと感じてしまい、口から言葉が出そうになったが、我慢した。
今日も、天気は晴れており、光が丘海岸の海も、黄金色に輝いており、夏海は、ふと、部屋に置いてある、過去の自分の日記を見た。

20××年 8月7日
今日、健太と夏祭りに行った。
健太の隣で歩きよって、ほんと、心臓の鼓動が半端なかった。
健太・・・・・大好き。

―かああ

1年前の自分、こんなこと書いたんやと思い、恥ずかしくなった。そして、夏海は、ページをパラパラとめくった。

20××年 8月10日
愛ちゃんと、松山市に行ったよ。愛ちゃん、めっちゃ食べ物食いよって可愛かった(笑)
愛ちゃんと、プリクラも撮ったよ。もー、ほんま楽しかった。

20××年 8月20日
たっつんから、初めて聞いた・・・・・・・(照)たっつん、愛ちゃんのこと好きなんや・・・・・。
たっつん、がんば~~~~~~~。🚩

20××年 8月31日
健太の部屋で勉強会したよ。笑いすぎてやばかった(笑)

夏海は、日記っていいなーとふと思った。そして、ページを更にめくると、こんなことが書いてあった。

20××年 9月9日
教室で、健太が私の顔をじっと見てきた。なんか、健太の頬が少し赤かった。健太って、あんなに顔綺麗やったけ?って、思った。私・・・・・・・健太のことが好きやと、改めて思った。健太の1番になりたい、健太に会いたい、健太の声を聞きたい。そう強く思った。

数分後、夏海は制服に着替え、夏海は、右手にギターの入っているハードケースを持ち、そして、もう片方の自分の肩に、参考書などが入っている荷物を背負い、アパートを後にした。夏海は海沿いのガードレールを歩いた。そして、ふと、海の方を見た。光が丘海岸の波の音は鳴りやまなくことなく、いつまでも音を立てていた。

―ざざっ

夏海は、光が丘海岸の海が、本当に大好きであった。そして夏海は、小さい頃に自分が虐められていたことをふと思い出した。
―えーお父ちゃんおらんの~
―変な子
―変わっとる
―気持ち悪い
―近づいてくんな、きもい
―きしょ
夏海は、小学校に上がる前に、A島に引っ越してきた。夏海の心の傷はいつまでも消えなかった。どんな時にでも、そのことを思い出し、悩んでいた時、健太が言ってくれた言葉を思い出した。

‘川村、お前は明るいし、愛嬌ええし、嫌みがないし、ほんで、人のいいとこたくさん見るし・・・・・。普通、人って、嫌なとこたくさん見るやーん。でも川村は違う。お前はいいとこだらけよ。そんな奴らのことなんか、気にすんな。また、そいつらがお前に何かしたら、俺がぶん殴ってやる。’

夏海は、健太からたくさんの優しさをもらっていた。すると、声がした。
「川村―――」
ふと声をした方を向くと、体操着を着ており、ショルダーバックを背負っている、健太が上の方から歩いてきていた。夏海は、どんどんかっこよくなっていく、健太にドキドキしていた。夏海は、健太の肩をバシッと叩いた。
「やほ」
「ん?どしたんぞ(笑)」
「なんでもない~」
「わけわからん(笑)」

2人はしょうもないことで、笑い合っていた。

―数分後

「なー川村」
「ん?」

夏海と健太は、2人並んで一緒に歩いていた。
「ちょい、ファミマよる?」
「え(笑)」
「アイス奢るけん。行こうで」
「ははは(笑)」
2人は、近道で、商店街の中に入った。魚屋・八百屋・ちょっと古びたゲーセン・文房具屋。夏海は、この町が本当に好きだった。すると、商店街の中で、夏海の大好きな曲が流れた。夏海は、少し黙り込んだ。蝉の音が大きく響く。人が交差しながら歩いている。夏海は、自分が今、元気に生きていることに感謝していた。すると、健太の左手が、夏海の右手に少し触れた。夏海は、健太の方を少し見た。健太は、夏海の頭1個分、背が高かった。商店街は活気に溢れておるが、2人だけの時間が流れた。すると、健太が、夏海の右手を、そっと握った。夏海の心拍数は半端なかった。
「・・・・・けんた?」
「・・・・・・・・・・俺ら、小さい頃さー、よくてー繋いで、海とか歩いてたよな。ちょい、てー繋いで歩こうで。」
「嫌や」
「は?」
夏海はものすごく恥ずかしくなり、自分の右手を無理やり、健太の左手から引き離した。
「けんた、うちら、もー中学生よ。子供やないんやからー。」
「・・・・・・・・・・・・俺だけか」
「ん?なんか言った?」
「いーや」

2人だけの時間が流れているみたいだった。しばらくの間、お互い無言で歩いた。夏海は、健太に対して、‘少し声低くなったんかな’とか、‘バスケ頑張りよるかな’とか、‘え、喉ぼとけ?’とか、健太の隣で、健太への思いを募らせていた。夏海は、そして、健太の唇を見た。はっ、と自分のしている行動に気づき、内心恥ずかしくなっていた。なんで自分、健太の唇を見よんやろ・―恥ずかしい・・・・と、内心とっても恥ずかしくなっていた。それは、健太も一緒だった。健太は、どんどん綺麗になっていく夏海に、恋焦がれていた。あの頃、2人は、つよがってしまい、お互い、想いをどう伝えようか悩んでしまう、2人は惹かれ合っていた。そして目的地のファミマに着いた。すると、1人の人物を見つけた。
「お、健太?それに、なっちゃんやん~~」
「なんで有馬がここにおるんですかーーー?」
有馬亮太。健太の1個上のバスケ部の先輩。夏海は、有馬が少し苦手だった。
「てか、なんで2人でおるん?」
有馬が鋭い突っ込みをしてきた。健太の頬が少し赤くなった。
「いや、部活行きよったら、川村に会って、ほんで、アイス奢ろうと思って、2人で商店街の中歩きよった。そんだけ」
すると、有馬がにやつき始めた。
「なっちゃん、こいつ、めっちゃ偉そうなこと言いよるけど、健太さー、この前部活の休憩時間の時、なっちゃん、1階の教室でギター弾きよったやろ?こいつ~、‘あいつの歌声綺麗やなー’って言いよったで(笑)ほんでー、もう一つー・・・」
「言わんでええけん!!」
健太の頬がますます赤くなり、健太は顔を赤くしながら汗をかいていた。
「はは(笑)お前、大好きなくせにー・・・・」
夏海は、びっくりした。
「え、誰を?健太、好きな人おるん?」
夏海は、‘かなり’天然なとこがあった。健太の頬がますます赤くなった。
「え・・・・俺、好きな人おらんのやけどー・・・」
すると、有馬がますますヒートアップしてきた。
「なっちゃん、こいつ・・・・・も~大好きなんやろ?休憩時間の時も、‘すげー好き’って言いよったやん。お前(笑)。素直になれよ。健太❤」
すると、ファミマから近い商店街の出口で、小さい小学生くらいの女の子が手を振っていた。
「にいにい~~~」
「じゃ、俺は帰りまーす。」
有馬は、その場を去っていた。2人の間で気まずい沈黙が流れた。
「・・・・・健太って、好きな人おるんやね」
「・・・・・・・・・・・・・・・おらんわ、アホ・・・・・」
「誰を、好きなん?」
すると、健太が、照れ隠しなのか、口元を手で隠した。
「・・・・・・・・・・・・どっかの、誰かさんが、好きなんよ・・・・・・・・」
「ん?誰かさんや分らんわ(笑)」
そんな2人の光景を、有馬がそっと見守っていた。夏海は健太が好き、健太は夏海が好き、

―あの頃、お互い素直になれず、2人は、お互いが惹かれ合っているのに、‘好き’、
その一言が言えぬまま、時間が過ぎていった。

第2章―「好きなのに・・・・」

8月某日。夜。夏海は勉強をしていた。夏海は、高校受験をせずに、働くつもりでおったが、母の真由子に、‘高校には行っとけ’と言われ、地元の高校を受験することに決めた。夏海の得意科目は、英語だ。夏海は、英語の長文問題を解いていた。
「I‘ve loved you for a long time.(あなたのことが、ずっと前から好きです)」
夏海は、その英語の文章が、なぜだろう。今の自分に当てはまっている気がした。夏海の中で、健太の顔が頭に思い浮かんだ。胸が、‘きゅっ’と苦しくなった。夏海は、こんなにも、1人の人を心から好きになったのは、健太が初めてだった。夏海は、立ち上がり、切なそうな顔をしながら、窓から見える、夜の光が丘海岸を見た。窓のガラスを、宝箱に触れるように、そっと触った。夏海は、‘健太どうしてるかな?’とか、‘健太に会いたいな’と、夜の光が丘海岸の海を見ながら強く思った。夏海は、人を好きになるのはこういうことなんだと、改めて思った。すると、家の受話器が鳴った。夏海が急いで受話器に出た。健太からだった。
―もしもし
夏海は思わず、受話器を落としそうになった。
ーん?・・・・健太?もー何時やと思っとん?(笑)夜の10時よ。(笑)
―・・・・・・・・わるいな。
夏海は、遅くに健太から電話がかかってきて、心臓が爆発するかと思った。
―あのー、どんなご用件でしょうか?
―・・・・・・あのさ、川村
―ん?
夏海は、健太の声が若干震えている感じがした。
―・・・・・・・・・・俺さ
―ん?何よ・・・・(笑)
―お前のことさ・・・小さい頃は‘夏海’って言いよったよな。
―うん。てか、話したい事、それやないやろ。
すると、健太の声が、更に震えた。
―お前は・・・・・・夏海は俺の事、どう思ってくれとん?
―え・・・・・・・・
まさかの質問に、夏海の心臓の鼓動が、更に騒ぎ始めた。
―・・・・・てか、健太の方は、私の事、どう思ってくれとん?幼馴染?
―え・・・・・・・。俺さ、川村こと・・・・・・・・。
―ん?
健太は、緊張してるのかな?と夏海は思った。健太が声を震わしているので、夏海は期待を膨らませた。
―・・・・・・ずっと
―うん・・・・。
―・・・・・・・川村、ごめんな。もー寝ろ。お休み。
そこでし電話がガチャと切れた。夏海は、健太の本心が聞きたかった、と強く思った。夏海は、そこからも、心臓の鼓動が鳴りやまなかった。夏海は、分かっていたのかもしれない。健太が自分のことを、強く、心から想っていることに・・・・・・・。

第3章―「悩み」
あれからも日が過ぎた。夏海は、心が晴れぬまま、日々を過ごしていた。
―川村のこと・・・・・・・・・・・
夏海は、扇風機の風を浴びながら、部屋でごろごろしていた。夏海は正直、健太が何を自分に話そうとしていたのか、分らなかった。夏海は、健太の気持ちが分からなかった。夏海は、健太のことがすごく好きなのに、健太に気持ちが伝わらない、そして、健太も自分のことをどう思ってくれているのか、まったく分からなかった。
「・・・・・・・・・健太・・・・・・。」
蝉の音がよく響く。鴎が飛んでいる。光が丘海岸の海の音がよく聞こえる。
夏海の気持ちは少し不安定になっていた。夏海は、そんな気持ちを晴らそうと、布団の近くに置いてあるCDプレーヤーに、好きな曲を流した。夏海は、好きな曲を聴きながら、健太のことを考えていた。
―川村・・・・・・・・・・俺さ・・・。
8月某日。まだ昼の12時台。蝉の鳴き声は鳴りやまることなく、よく響く。少し窓を開けているので、光が丘海岸のさざ波の音が、夏海の不安な気持ちを癒してくれた。夏海は、窓に差し込む太陽の光が、夏海のこれからの日々を考えさせてくれている気がした。夏海の癖毛の髪が、窓から吹き込む風によって、少しなびいた。夏海は、布団に横たわりながら、夏海は、ふと思った。もし、健太と付き合って、キスとかしたら、私は顔を真っ赤にして、健太も顔を赤くするに・・・・・でも付き合ってないのに、と夏海は思った。すると、家のインターフォンが鳴った。愛がアパートに来た。
「なっちゃん、遊びに来たよー♪」
「あいちゃん、いらっしゃい。冷蔵庫にプリンあるけん、食べようよ。てか、あいちゃん、いきなり来たけん、びびったやーん(笑)」
愛は、ノースリーブのワンピースに、三つ編みをしていた。愛は、小さなカバンから、スナック菓子を取り出した。
「なっちゃん、語ろうーーーーー。」
愛は、自分の家みたいに、川村家の玄関に入り、夏海の部屋に来た。すると、愛が、またも話し出した。
「なっちゃん」
「ん?」
「痩せた?ちゃんと食べよん?」
「食べよらん(笑)」
「ははは(笑)」
夏海は、愛と会うのは1週間ぶりだった。夏海と愛は、畳の上に座り、小さな折り畳みのテーブルの上に、プリンとスナック菓子と、オレンジジュースとコップ2つを置き、マシンガントークをし始めた。これからのこと、学校の夏期講習、あの先生の癖、お互いの事、好きなこと、たくさんのことを、夏海と愛は話した。気づけば、時間は2時間くらい過ぎていた。
「なっちゃん」
「ん?」
「ほんま、大人になったら、一緒にお酒とか飲みたいねー」
時間帯は、午後の3時台。夏海は、窓から差し込む太陽の光を見ながら、これからの人生のことも思った。すると、パートから真由子が帰ってきた。
「ただいまー。あ、愛ちゃんやん」
「真由子ちゃん。おじゃましてまーす(^_-)-☆」
「全然おってな。てか、愛ちゃん、今日、泊まったら?(笑)3人でガールズトークでもしない?❤」
すると、夏海がツッコミを入れた。
「母ちゃん。ガールズトークというよりも、おばちゃん+若い女2人トークやない?」
「はははは(笑)」
「なっちゃん晩御飯抜き~~~~(笑)」
「えー(笑)」
夏海は、この日々が、本当に幸せだった。夏海は、愛にまだ、健太のことを打ち明けていなかった。夏海は、また健太に会えたら、目を見て、健太に自分の気持ちを話そう、そう心の中で決めた。

第4章―「涙」

―あの頃の私は、たくさんのことで悩んでいた。

次の日、夏海は愛と、光が丘海岸に来ていた。夏海は、海岸でも愛と話をしながら、朝の海を見ていた。海の向こう側でそびえたつ朝焼けは、本当に綺麗だった。2人は朝の風を浴びながら、砂浜近くを歩いていた。光が丘海岸の海では、若いカップルや、親子、そして、女友達組、いろんな人たちがいた。夏海の癖毛の髪が、風でなびいた。夏海は、健太のことも悩んでいたが、なぜだろう。海を見ていたら、自分の悩みがちっぽけのような気もしてきた。夏海は、塩の匂いを、からだ全身に浴びていた。すると、愛が話し出した。
「なっちゃん」
「ん?」
「なっちゃんと・・・・・・このままずっと一緒におれたらな~~」
「うちもよ。愛ちゃん。」
すると、愛が、夏海の目をジッと見た。
「なっちゃん、あのさ、うち、最近自分の人生について、ものすごく考えよってー」
「うん」
愛と、将来のことについて話したんは、これが初めてかもしれないと、夏海は思った。
「なっちゃん・・・・・なっちゃんは夢とかある?」
「急にどした?(笑)」
「いや・・・・・・・最近親と進路のことでもめとってさー。もっと偏差値のいいとこの学校行けとか言ってくるんよー。なんか、親の人生じゃないし、自分の人生は自分で決めたいなーって思って・・・・・・・。なっちゃんは、これからの人生どうしたい?てか、どうしていきたい?」
愛の目は真剣だった。7月上旬、夏海も母の真由子と進路のことについてもめたことがあった。夏海の家は裕福ではない。家賃2万円の団地のアパートに住んでおり、部屋も狭く、布団で寝ている。クーラーもなく、暑い時期は扇風機生活。夏海は、母の真由子に、‘高校に行って、勉強しろ’と言われ、高校受験という道を選択した。はたして、それが幸せなのかと思ったこともあったが、夏海には夏海の人生がある。夏海は、このまま平凡に普通に暮らせたら、と思ったこともあった。夏海はまだ14歳。夏海は、自分の人生についてもっと考えていきたいと、更に思った。夏海は、愛の質問に、こう返した。
「うちは・・・・・・・・・・このまま平凡に普通に暮らせたらいい。それだけでいい。」
恋・勉強・将来の事・これからの人生。夏海はたくさんのことで悩んでいた。14歳の夏海は、まだまだ見えぬ未来に、不安を抱えていた。夏海と愛は、砂浜の上に座った。夏海は、愛と話して、自分の将来についても、もっと真剣に考えていかないといけないなーとも思った。夏海は、自分の胸に問いただした。
(うちは、音楽が好き。ほやけん、音楽関係の仕事に就きたい。でも、音楽の世界もそんなに甘くない。私は、普通に地元の高校に進学して、結婚して、平凡な人生を歩んで・・・・・・。でも、それも幸せではないのか・・・・・・。うちは・・・・・・・・・。)
夏海は、ふと、真由子が言っていた言葉を思い出した。
―母ちゃんは、母子家庭で、高校の時は居酒屋とスーパーでアルバイトしよった。でー、音楽関係のお仕事に就きたい、そう思って、高校1年の時に、高校卒業したら、東京の音楽の専門学校通おうと思って、そのお金を貯めようと思って、必死にアルバイトして、勉強もしよったけど、和樹に出会って、和樹も、音楽会社に就く夢を持っとる男でね、意気投合して、この仕事に就くためには何の資格を取らんといけんとか、いろいろ勉強しよったけど・・・・・・なっちゃんがお腹に宿って、お母ちゃん、和樹と‘東京行こう’って駆け落ちまでして、でも、周囲の反対押し切って、なっちゃんを産んで・・・・・。それはそれでよかったんじゃないかなーって今になって思うよ。なっちゃん、一度きりの人生。自分がどうしたいか、自分がどのように生きていきたいか、なっちゃんが決めたらえーよ。自分の人生なんやけんね
夏海は、母の真由子が言っていた言葉を思い出し、目頭が熱くなった。夏海は、愛の左手を添えるように握った。
「愛ちゃん」
「ん?」
「人間、悩みに直面した時が、成長出来る時らしいよ。あいちゃん、あいちゃんの人生なんやけん、どうしたいか、これからどのように生きていきたいか、あいちゃんが決めたらえーよ。」
愛は、夏海を見ながら目を細めた。
「ありがとね・・・・。なっちゃん、お互い良い人生歩んでこ~」
2人は、光が丘海岸の海にそびえたつ朝焼けを見ながら、これからの将来について、深く語り合った。その夜、夏海は、とある写真を見ていた。夏海が3歳のころの写真で、母の真由子との2ショット写真だ。そして、夏海は、お腹のところに、むむちゃん人形を抱えていた。むむちゃん人形は、母の真由子曰く、真由子は、夏海が小さかった頃、時給1300円のパン屋さんと、時給3000円のスナックで働いていた。パン屋さんを朝、そして、夜にスナックで働く生活を、月~金まで毎週働いていた話を聞いたことがある。お金もなくて、貧乏。そんな時、3歳の夏海が寂しい思いをしているんじゃないかと思い、夏海に寂しい思いをさせたくないと思い、真由子は、自分の給料から、人形屋さんで‘むむちゃん人形’を買い、3歳だった夏海に、‘これ、お母ちゃんと思っていい子にしててね’と言い、3歳の夏海に‘むむちゃん人形’を、その時真由子は、泣くのを我慢しながら、夏海に渡していたと、祖母の夏から、ある時聞いたことがある。夏海は、同級生が、‘お母ちゃんスナックで働きよん?’、‘やばー’みないなことを言われたことがあったが、夏海は、一生懸命汗水たらして働く、そんな真由子を、夏海は1人の母として尊敬していた。夏海は、自分の人生を、もっと真剣に考えたい。そう思いながら、進路のことについて深く考えた。そして、健太のことも・・・・・・・。健太とのことも、真剣に考えていた。

―14歳の夏海は、いろいろな悩みを胸に抱えながら、自分の人生について、真剣に考えていた。

第5章―「進路。そして恋」
夏休み明け、中学で三者面談があり、夏海はそわそわした面持ちで、母の真由子と、中学から徒歩5分のレトロ喫茶店に来ていた。夏海と真由子は1つの四角いテーブルに向かい合うように座り、夏海はオレンジジュースを、真由子はアイスコーヒーを飲んでいた。母から、マルボロの煙草の匂いがした。夏海は、どこか落ち着きがなく、オレンジジュースを、夏海はズズッと飲んだ。夏海と真由子が座っている席からは、ちょうど海が見えた。すると、真由子が話し始めた。
「なっちゃん」
「ん?」
「私、お母ちゃんは、なっちゃんに、自分の人生を歩んでほしい。なっちゃん、なっちゃんは、これからの人生を、どう歩んでいきたい?」
母の真由子が、真剣な面持ちで、夏海に質問をなげかけた。夏海は、前に愛と、将来のことについて話してから、自分の人生について深く考えていた。愛は、‘親に決められる人生は嫌。自分の人生は、自分で歩んでく’と言っていた。夏海は、もう一口、オレンジジュースを飲んだ。
「私は・・・・・・・中学卒業したら働く。ほんで、お母ちゃんをもっと楽にさせたい。」
「夏海。お母ちゃんのことなんか考えんでいい・・・・!」
「考えるよ!!お母ちゃん、バイト掛け持ちして、毎日へとへとになりながらアパート帰ってきてさー。母ちゃん、そりゃ、母ちゃんのことも考えるよーーーー。母ちゃんにこれ以上、しんどい思いしてほしくない・・・・・・・・・・・・・・・。」
すると、真由子が夏海の両手を添えるように握った。
「なっちゃん。お母ちゃんは、なっちゃんの人生を歩んでほしい。お願い・・・・・・・。」
真由子の手は震えていた。夏の風が、窓の隙間から入り、海のさざ波が聞こえる中、夏海は、自分がこれからどうしたいのか、分からなくなっていた。その後、三者面談も無事終わり、夏海は、少し教室でギターを弾こうと思い、教室へと向かった。すると、まさかの健太がいた。
「・・・・・・・あ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うす」
2人の間で少し気まずい沈黙が流れた。夏海は、教室の床にあぐらの体制で座り、ハードケースからギターを出した。そして、健太の方を少し見た。健太は、何も話ししてくれなかった。すると、健太が話し出した。
「・・・・・・・・・・川村」
「ん?」
夏海はギターを床に置き、少し立った。そして、健太に抱きしめられた。
「・・・・・・・・・・・・・綺麗になってくんなよ」
そう、夏海の耳元で、健太が囁いた。



第6章―「教室で」
真夏の暑い日。夕方頃。夏海は教室で健太に抱きしめられた。夏海は、健太から離れようとしたが、力が強く、離れることが出来なかった。夏海は、健太の温もりを全身で感じた。すると、健太が言った。
「川村・・・・・・・・・・」
―どきっ
夏海は、健太の呼ぶ声が愛しかった。夏海は、健太の腕の中に包まれていた。夏海は、好きな人に抱きしめられるって、こんなにも幸せなんだと思った。夏海は、気づいていたのかもしれない。健太が、自分のことを、すごく想っていることに。夏海は、健太の鼓動が早くなっているなーと感じた。
「・・・・・・・・・・川村、この前言いよったことなんやけどさー・・・。」
「ん?」
「俺、お前の事・・・・・・・・・・。」
夏海はこの時、心臓の鼓動が爆発しそうだった。すると、健太が、そっと夏海の身体を引き離した。
「・・・・・・・・・・・・・・ばーか」
「あ?」
「俺、帰るわ」
「は?健太は何を言おうとしよったん?」
「帰るぞ」
健太は、そそくさと、ショルダーバックを持って、教室を出ていった。夏海は、健太はずるい、と思った。外では、野球部が延長練習をしていた。夏海は、まだ、心臓の鼓動が鳴りやまなかった。夏海は、いつでも、‘健太に’好き‘と言われたい’と思っていた。

―夏海は、ただ、真っすぐに、健太に惹かれていた。恋をしていた。

第7章ー「馬鹿」

その日の夜、夏海は受話器で、愛と電話をしていた。母の真由子は、スナックに働きに出ていた。
夏海は、愛に相談をしていた。健太のことを。
「愛ちゃん」
「ん、どした?」
最近、健太に対して、ますます意識してしまうな、と、夏海は自分自身で思っていた。
「私・・・・・・・・・健太が分らん。」
「え、山村?」
夏海は、1個1個話し始めた。
「健太、何を言い出すと思ったら、言うのやめたり・・・・・・・・。男って分からん。」
すると、愛が、
「・・・・・・・うちさ、山村、なっちゃんのこと、すごく好きやと思うんよねー。」
「え・・・・・・・・愛ちゃん、健太はうちのこと、何も思っとらんよ。」
「なっちゃん、山村も・・・・・・・・・・・たまに教室で見るんやけどね、前、なっちゃんが、まどかと教室で話しよるときね、山村、あいつ・・・・・・・・・・・・・・・・・なっちゃんのこと、切なそうな目で見よった。すごく‘なっちゃんのことが好き’って感じの顔をしとったよ。」
夏海は、なんとも言えない気持ちになった。でも、健太が自分のことを好きと、信じれなかった。夏海は、声を震わしながら言った。
「愛ちゃん・・・・・・・・私、こんなにも、1人の人を好きになったの、初めてや。愛ちゃん、心の底から、‘この人が好き!‘って思ったん、健太が初めてかも・・・・・・・。」
「・・・・・・てか、なっちゃんと山村、‘両想い’?(笑)」
「え???」
夏海の頬が赤くなった。夏海の心拍数は、ますます上昇していた。夏海と愛は、3時間くらい長電話をした。夏海は、愛との電話が終わった後も、心臓の鼓動が鳴りやまなかった。健太のことが好き。でも、伝えられない。そんなもどかしい思いを抱えていた。好きなのに、こんなにも健太のこと、大好きなのに・・・・・・・・・・。夏海は、アパートの窓から見える、光が丘海岸の海を見ながら、健太への想いを膨らませていた。夏海は、‘健太に会いたい’と強く思ったが、なぜだろう。夏海は、健太と心の距離が離れているような気がして、とても苦しかった。少し前に、商店街で、健太と手が触れ合ったことを思い出した。健太の手、少し震えていたな・・・・と夏海は思った。夏海は、胸が苦しくなった。健太の事、こんなにも好きなのに、大好きなのに・・・・なんで気持ちが言えないのだろう、と、もどかしい気持ちになった。そして、健太の隣で笑っていたい、とも思った。

―14歳、夏。夏海は1人の人を愛する痛みを知った。
好き、と言いたい。
好き、と伝えたい。
好き、と健太に言いたい。
でも、夏海は、言えなかった。
こんなにも、人を好きになったのは、健太が初めてだった。

第8章―「過去の傷」
次の日の朝、夏海は少し熱を出し、体調不良に陥った。
「なっちゃん、大丈夫・・・・・・・?」
「母ちゃん、大丈夫よ。ただの夏風邪やし。ごほっ、ごほっ・・・・」
「なんかあったら、電話してきてよー。」
母の真由子は、夏海のことを心配しながら、仕事に出かけた。夏海は、CDプレーヤーで音楽を流しながら、布団の上で、天井を見ながら、過去のことを思い出していた。

夏海は、昔から‘変わっとる’とか‘変な子’とかでいじめられたり、母の真由子のことを悪く言う人もおったり、内心、酷く傷ついたこともあった。夏海は、天井をみながら、たくさんのことを思い出していた。勉強が出来なくて馬鹿にされたり、ノロマとか、それと、人格否定されたことも実際あった。夏海は、でも、小学校に上がる前に、愛媛県のA島に引っ越し、健太と、達也と愛に出会った。かけがえのない友達、そして・・・・・好きな人にも出会った。夏海は、‘辛いこともあったけど、いいこともあったな。皆に出会えてよかった。’と思った。夏海の両目からは、少し涙が出てきた。夏海は、ADHD。小さい頃に、子ども心療内科で、発達障害の診断を受けた。夏海は、後から祖母の夏から聞いたのだが、

≪この子が将来困らないように、言うことは言っていく。でも・・・・・・・・なっちゃんに辛いだけの人生歩んでほしくないな。なっちゃんを命がけでお腹痛めて産んだもん。・・・・・この子に辛いだけの人生歩んでほしくないな。私、この子の親になれてよかった。この子が大きくなった時、私がお母ちゃんでよかった、そう思ってもらえたら、これ以上の幸せは、ないよ。ほんと、生まれてきてくれて、ありがとう。≫

そう言っていたと夏から聞いた。夏海は、母の元に産まれてよかった、そう強く思う。
夏海は、昔から、‘出来ないこと’の方が多かった。
・ミスが多い
・言われたこと、頼まれたことを直ぐ忘れる
・‘ほんとに分かってる?’と、人に言われるぐらい、話を聞いていないことが多い。
・同じことを何回もしてしまう
・1つの事に集中出来ない
・行動が遅い
・悩みを抱えやすい

夏海は、‘自分の人生って何やろ’と、辛く感じたこともあった。少し人と違うだけで、悪口や嫌がらせを受けたこともあった。そのたびに、母に辛い思いをさせている自分が嫌でたまらなかった。夏海は、もう、死んでしまおうか、そう思ったこともあった。でも、自分が死んだら、大切な人を悲しませてしまう。夏海は、‘まだまだ生きんといけんな’、そう強く思い、踏みとどまった。夏海は、これからの人生のことに対して、真剣に考えていた。これからのこと。日々のことを。そして、健太への想いをどうするかを。夏海は、幼稚園の時に酷い虐めを受けた。原因は、‘母子家庭’という理由であった。

・お前の母ちゃんけばい
・変な子
・きもいけん、来んな。ばい菌。
・こいつの呪いがうつった。
・きも、ほんと、気持ち悪い。不気味。

夏海は、そのこともあって、‘自分が人と違う’。そのことに対しても、昔からすごく悩んでいた。どうしたら気持ちを楽にして、生きることが出来るか。夏海は、悩んでいた。夏海は、コンプレックスをたくさん抱えていいた。そして、母に対して、申し訳ないきもちをたくさん抱いていた。母は生活のために、毎日のように働いていた。夏海は、母に、~しとって、と言われたことも、すぐ忘れて、他のことをしてしまう。小さい頃にADHDの診断を夏海が受けた時、母の真由子は、本当に辛かったはずだと、そう思った。真由子は、夏海が生まれた数日後に、結婚を約束していた彼・和樹を交通事故で亡くした。でも、真由子は言っていた。

「なっちゃん、お母ちゃんのもとへ生まれてきてくれて、ありがとう。お母ちゃん、なっちゃんが大好き。なっちゃん、二人三脚で、お母ちゃんと生きていこ。なっちゃん、愛してる。」

夏海は、母の真由子に、支えられてばかりだと、思った。世界でたった1人のお母ちゃん。母の真由子も悩んだことは数えきれないくらいあっただろう。夏海は、たった1人の母親、真由子のことを愛していた。本当に愛していた。

第9章―「ギター」
その日の夜、夏海の熱は、少し下がった。夏海は、CDプレーヤーで、音楽を流しながら、ギターを弾いていた。夏海は、夜、窓から見える光が丘海岸の海を見ながら、ギターを弾くことも、幸せでたまらなかった。
「愛してる~~~~♪あなたを~~~~♪」
夏海は、ポロンッポロンとギターを弾いていた。なぜだろう、この時、健太のことを思い出した。時間帯は、夜の10時を回っていた。夏海は、健太のことを想うと、胸が苦しく、‘大好き’と、心の中で強く思った。夏海は、こんなにも、人を好きになったのは、健太が初めてであった。夏海は、ノートに、健太への想いを記していった。

‘14歳の夏、君のことが好きだと気づいた
大好き、と強く思う
届け 届け と、そう思っても
君に気持ちが届かない
君は、私のこと、どう思っとん?
好きだよ、大好きだよ
君の優しさに、何度も助けられてばかり。
君の隣で、笑っていたい。
そう強く思う、14歳の、ひと時の夏。
光が丘海岸は、色あせることなく、いつまでも輝き続ける
君と、いつまでも、笑い合っていたい。
私が、もし、消えても
忘れないで。君の事を
「いつまでも、愛してる。」‘

夏海は、自分の書いた歌詞が、なんだか、照れ臭かった。健太への思いは、ますます大きくなっていた。夏海は、切ない顔で、窓にそっと、宝箱に触れるように触り、光が丘海岸の海を見た。時刻は、10時半を回っていた。夏海は、健太に恋をしていた。夏海は、何分も、窓越しから、光が丘海岸の海を、じっと、見ていた。


第10章―「いじめ」


次の日から、夏海はたくさん悩むようになった。
夏海は何もしていない。本当に何もしていない。だが・・・・。
夏海は、1個上の複数の女子生徒から、ちょっとした嫌がらせを受けるようになった。
「え、きも」
「あんまり可愛くないよね」
「きしょ」
「笑い方、怖い」
「ぶりっこ」
夏海は、これらの嫌がらせもあり、精神的に苦しくなっていた。‘怖い’と強く思った。そして、同じく、1個上の男子生徒3人からも、言葉の嫌がらせをうけた。
「え、川村って、お母さん、風俗?やばww」
「性格悪いらしい」
「きも、きしょ」
夏海が、学校の廊下を歩いていると、その男子生徒3人のうちの1人が、
「乳首、透けとるwwwwwあははははwww」
と、言っているのも聞いたことがあった。これらのきっかけは、‘有馬の、夏海への好意を女子生徒が知り、その嫌がらせによるもの’だった。夏海は、我慢していたらいずれ収まる、そう思い、精神的な言葉の嫌がらせを、母の真由子にも吐けず、悩んでいた。夏海は、次の日からも、ちょっとした嫌がらせをうけた。
・母ちゃん、けばい
・性格良くない
・しろちくび
・臭い、ファブリーズかけたろか
・声が大きい
・あんまり良い噂聞かんよね
・うるさい
・臭い、お風呂入りよんかなー
・あの子のどこがいいんやろー
そして、その人らは、夏海の話し方もマネをした。
「ええやん、ええやんwwwwwwwww」
「似とる、似とるwwwwwwwwww」
夏海がいる近くで、夏海の話し方を変にマネしたりした。そして、下校中、夏海は、お腹が急に痛くなり、愛がおんぶをして、高橋家で休んだこともあった。そして、愛が、友達のまどかから聞いた。そして、まどかは、健太にも話した。
「・・・・・え、なっちゃんから何も聞いてない・・・・。」
愛の怒りはピークに達した。そして、健太の怒りも収まらなかった。次の日、愛は3年生の教室に、入り、夏海の悪口を言っていた奴らのとこに行き、そのうちの主犯の女の肩をバンッとした。
「なんすんのよ」
「お前、うちの親友虐めんなよ!!!なっちゃんの近くで何言ったんぞ!!?」
「いや、何も言ってないって・・・・」
「いや、言ったやろ?言えよ。何、うちの親友の悪口言ってんだよ!!」
愛は、怒っていた。その時、ちょうど有馬が教室に入ってきた。
「うっす~~~。ん?高橋ちゃん?なんで教室に?」
有馬は、この時の状況を把握できてなかった。すると、女子生徒の1人が、変なことを言い出した。
「やって・・・・・あの子、人の悪口ばっか言うんやろ?」
「え、誰が言うん?」
有馬が、少し表情を曇らせた。愛は、その女子生徒の頬を殴った。
「ふざけんなって、なっちゃんの悪口、お前らめちゃくちゃ言いよったって、耳に入ってんだよ」
すると、有馬の顔が、ますます曇った。
「は???何やってんだよ。」
すると、教室にまたも、健太と達也が入ってきた。健太の顔は、怒っていた。そして、壁を殴った。
「こん中に、川村の悪口言いよった奴、どいつら??なんか、俺の耳に、男3人くらいも、川村の悪口言いよった奴おったって聞いたんやけど。どいつら??」
すると、近くで、男3人が、びくびくしていた。健太は、分かった。健太は、その3人のとこにいった。
「・・・・・・・お前ら、何、川村の悪口言ってんだよ。」
健太は、3人のうちの、1人の胸ぐらをつかんだ。
「いや、言ってない。」
「は?お前、殺すぞ。お前、川村がおる近くで、何て言ったんぞ」
健太の声は低く、怒りを露わにしていた。
「・・・・・・乳首透けとるとか・・・・・母ちゃん風俗嬢っていう噂聞いて・・・・・・ほんで、悪口言った・・・・。」
「・・・・・・・・てめえ、ぶっころされてーのか」
健太の声はますます低くなった。
「ごめん、山村・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・は?なんで俺に謝ってんだよ。謝るなら、俺やなくて、夏海に謝れよ。」
愛と、達也は、え?と思った。健太が久しぶりに、‘‘夏海’‘と言っていた。
健太は、続けて言った。
「てめえら、夏海がどんだけ辛い思いしとんか、分かっとん?分かってねーだろ。てか、何、馬鹿な噂流してんだよ!!夏海のこと、お前ら、何も分かってねーだろ!!」
すると、女子生徒1人が、健太に言った。
「じゃー、山村くんは分かっとんの?」
すると、健太は言った。夏海が、近くの階段にいた。
「・・・・・・俺が、どんだけ夏海のこと好きやと思ってんだよ。・・・・・・・・・・・・・・・夏海が好きなんだよ。」
「・・・・・・山村、てか、1人ずつ、殴っていく?」
愛は、心の中で、‘なっちゃんを命がけで守るのは、山村やな’と、思った。夏海は・・・・・・1人で階段で泣いていた。
「・・・・・・・・・うっ・・・・・・・・・・っ」
こんなにも、泣いたのは久しぶりだった。この時、夏海は、健太の想いに、健太の好意に、健太が自分のことを本気で好きでいてくれることに、初めて気づいた。夏海は、小さい頃からずっと、自分は弱い人間と思いながら生きてきた。でも、自分のことで本気で怒ってくれる親友、友達、そして、最愛の男の子にも出会った。

―小さい頃から、自分は弱い人間と思っていた。
でも・・・・・・・、こんなにも、人を好きになったのは、初めてやった。
悩んだこともたくさんある。
でも、あなたは、私を守り、そして、恋を知った。

小さい頃から、苦しかった。不安やった。
でも・・・・・・・・・・・・・あなたからの愛を知った。
恋を知った。
好きだよ。
大好きだよ。
あなたに本気で恋をした・・・・・・・・・そんな14歳の夏やった。

夏海はこの時の気持ちも、ノートに記した。

その後、
15歳の春に、2人は中学を卒業し、
16歳の冬に、教室で抱きしめ合い
16歳の春に、お互いが想い合ってると知り
16歳の5月に、キスをし、
17歳の夏に付き合い、
17歳の8月に、健太の部屋で、初めてを知り、繋がる痛みを知った。愛も知った。
そして、1か月後、健太は雑貨屋の指輪を夏海の指にはめ、
「いつか、結婚しよ」と、光が丘海岸で小さなプロポーズを夏海にした。

2人の愛は、枯れることなく、散ることなく、2人の愛は、永遠であるに違いないと思う。
そして、17歳の冬に、夏海の病気が発覚し、そして、18歳の夏に、誕生日を迎える前に、夏海は、静かに病室で息を引き取った。そして、21年の月日が流れ、健太は、37歳の時に、公園で煙草を吸って、夕暮れの空を見ながら、夏海を思い出し、そして、夏海の想いを知った。

そして、空にいる夏海を想いながら、健太は夏海と、永遠の愛を誓った。
こんなにも、人を好きになったのは、お互い初めてであった。

―山村夏海になってください

高校2年の時に、声を震わしながら、小さなプロポーズをしたことも、健太は、密かに、思い出していた。夏海に会いたい、会いたい、会いたい、と強く思った。

Kawamura Natsumi ♡ Yamamura Kenta

(END)










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