愛なき政略結婚は愛のはじまりでした

　ドアの先は広いリビングルームであったが、そこには見知った顔が四つある。そのうちの三人は納得の顔ぶれ。自分の父と義母と桜子だ。その中で桜子の存在は異質に感じるが、それ以上に異質だと感じる人物が他に一人いた。エンリッチの常務取締役で清隆の叔父である加々美浩二(こうじ)だ。

　リビングテーブルの前に座っている浩二は、雅の姿を認識すると、にっこりと笑みを浮かべて、雅を自分の目の前の席へ座るよう、手の平を向けて促してきた。

　一方、義母と桜子は奥にあるソファーに並んで座っており、面白くなさそうにこちらを見つめている。そして、父は壁際に立ってこちらを睨んでいた。

　父の鋭い視線に萎縮しながらも、雅は恐る恐る浩二の目の前へと移動する。雅が浩二の向かい側に立てば、浩二は椅子に座るよう示してきたから、雅は大人しくそこへと腰をかけた。