愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 今日も同じ体勢になれば、清隆は雅を甘く見つめながら、甘い言葉を囁いてくる。

「君の肌は本当に透き通るようにきれいだな。だが、すぐに頬に赤みがさす」

 雅の頬が今まさにそうなっているのだと示すように、清隆は指先で雅の頬をくすぐる。自分の状態を自覚させられて雅は恥ずかしくなるが、それでも黙って受け入れることしかできない。

 清隆が支配的な人ではないとわかってはいても、夫に反抗的な態度を取ることなど許されないと思っているから、雅はただの一度も文句を言えないのだ。

 清隆はそんな雅のことをわかっているのかいないのか、いつもわざとらしく雅の羞恥心を煽ってくる。

「ふっ、本当に赤いな。照れているのか?」

 清隆はさらに雅に自覚させるように頬を手の平全体で包み込んだかと思うと、そのままゆっくりとスライドさせて今度は唇へと触れてくる。

「この唇も本当にいい。下側がぷっくりと厚くてそれが色っぽい。だが、全体的に小さいから私の口で簡単に覆ってしまえる」

 清隆の言ったことが本当だと証明するかのように、清隆は雅の唇を覆うように口づけては楽しそうに笑っている。

「愛らしいな。君は本当に愛らしい」

 頭を軽く引き寄せられ、額へと音を立てながら口づけられる。額への感触だけでなくて、音からも清隆のキスが伝わってきて、とてもくすぐったい。

 数回それを繰り返されてから雅の頭にかかる圧が弱まる。それに合わせてそっと頭を上げてみれば、優しい瞳が雅を迎え入れる。その瞳に出会うと雅はもうそこから視線をそらせない。

 そのままじっと見つめ合っていれば、重力によって垂れ下がった髪をかき上げるように、優しく撫で梳かれる。

 なんだかえらく甘やかされているような感じがして、とてもむず痒い。清隆以外からこんなふうにされた経験はないから、どう対応すればいいのか雅にはわからない。ただただ翻弄されるばかり。

 それでも清隆はいつだって楽しそうにしているから、雅はこのままでいいのだと思えるのだ。
< 84 / 177 >

この作品をシェア

pagetop