一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
「あ……」
「堀田、遅くなるけどいいか?」
「うん」

 今までの和気あいあいとした空気が一瞬で消えて、ピリピリとした嫌な空気が流れ出す。

「私……部屋に戻るね」
「わかった」

 私はそのまま部屋に戻り、ベッドの上に座る。

(話ってなんだろう)

 もしや、私が成哉の子を妊娠しているのがバレたのか。

(やばいまずいもしそうなら怒られる怖い怖い)

 頭の中の血の気がさっと引いていくのが、自分でも理解出来た。

(もし、私とくっつくのは駄目ってなったらどうする?)

 心の中で自問自答してみる。

(だめなら、身を引くしか無い。元々私がみたいな地味で取り柄もない女が藤堂くんと釣り合う訳が無い)
(だけど、1人で子供をちゃんと育てられるの? 絶対無理でしょ? 親からの理解も得られるの?)

 自問自答すればするほど、深みにはまって行く。すると玄関の扉が開く音が床下から聞こえてくる。

(来た)

 私はそっと耳をすます。うっすらと成哉の父親、院長の声が聞こえて来た。

「成哉急にごめんな」
「いやいいよ、どうしたんだ。中入ったら?」
「この後用事があるからここで良い。結論から言うとお前の婚約が決まった。だけど、成哉。お前の子供を妊娠している人がいるらしいな」
「あ……」
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