一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
「藤堂くん」
「堀田……あのさ」
「話聞いていたよ。私、やっぱりここには住めない。ごめんね」
「堀田……!」
「婚約者と幸せになって。私は1人でどうにかするから」

 私は勢いを付けて踵を返し、玄関の扉を開いた。成哉が私の左手を震える手でつかみ、私が出ていくのを制する。

「婚約はしない。だから……」
「でも、婚約しないと病院が大変な事になるんでしょう? なら、私はいない方が良いよ。だって元々私みたいなのは藤堂くんには不釣り合いだし」
「……」
「ごめんなさい」

 重い玄関の扉を開き、胸の中にあるすべてを振り切るように私は高級住宅街から途中でタクシーに乗って自宅へと戻ったのだった。
 帰宅後、空腹と言う事もあって、胃の中がむかむかと気持ち悪さが増大する。

「あーーお昼どうしよ」

 ここまで来たらいっそ、油ものでも食べてしまおうか。良くわからないがこれなら食べられると言う根拠のない自信があった。

「スマホで頼むか」

 ベリが丘の街にあるファストフード店へスマホを使ってデリバリーを注文した。注文したのは照り焼きハンバーガーとフライドポテトとナゲットと牛乳パック。牛乳はとりあえず頼んだもので、お昼に食べるようではない。

「お待たせいたしました」

 玄関で注文した品々を受け取ると、机にどかっと品の入った袋を置く。
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