彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
私は物音のする浴室の方へ戻り、そっと脱衣所のドアを開けた。
浴室のドアの向こうに人影が見える。
流しっぱなしのシャワーに紛れ、女の喘ぎ声が浴室の狭い空間に響き渡っていた。

「お前はここが弱いよな」

男の声に女の喘ぎ声はいやらしさを増す。

「ねぇ、ホントにあの人来ないの?」

「あぁ、あいつはバイトだって言ってたから心配しなくていいよ。っつーか、もういいかなぁ。まぁ、飯も美味いし、掃除もやってくれるし、無償で家政婦雇ってるって感じで全然オッケーだったんだけど、なんか重たくなってきた。セックスも全然だし、多分不感症だな。満足できない」

「彼女さん、可哀想。同情しちゃう」

「可哀想なのは俺の方だっつーの」

「じゃあ、可哀想な俊哉くんに、うんと気持ちイイご褒美あげるわ」

「うぉぉぉぉっ、すっげぇ、やばっ!」

「どう?気持ちいでしょ」

「やっば、最高。俺もう無理」

女の声は奇声に変わり、肌と肌が水を弾きながらリズム良くぶつかり合う生々しい音と、「俊哉」「カズハ」お互いを呼び合う乱れた声が耳の奥に焼きついた。

目の前で繰り広げられる行為に唖然として一歩も動けなかったが、なんとか足を動かし脱衣所を出ると、マンションからも飛び出した。

ふらふらと歩き続け、気が付けば、いつのまにか自宅近くの港にいた。

なんか疲れたな……

自力で立っていられず近くにあった防護柵に寄りかかる。自分ではコントロール出来ないほど、いろんな感情が押し寄せ、とうとう涙腺は崩壊した。
< 5 / 151 >

この作品をシェア

pagetop