彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「俺は君に魔法をかけてもらったんだ。元気になる魔法をね」

「魔法……」

魔法と言えば、お出かけの時には欠かさず持ち歩いていた飴。
父から元気が出る魔法をかけてもらった飴。
それしか心当たりがない。

「やっぱり覚えていないよね。俺、君に棒付きキャンディをもらったんだけど」

やっぱりそうか!でも全く記憶にない。

「申し訳ありません、棒付きキャンディは確かに持ち歩いていましたが、高椿先生、貴方に渡した記憶がなくて……」

「君はまだこんなに小さかったから」

彼は当時の私の身長を手で示してみせた。

「そうだったんですね……」

「奇麗になったね。惚れ直したよ」

「えっ⁉︎」

「君はね、俺の初恋の女性(ひと)なんだ」

突然の告白に声を失ってしまった。

「桃園美音さん」

「は、はい」

彼が再度姿勢を正す。私も釣られて背筋を正した。

「俺と結婚を前提に付き合ってくれませんか?」

「ひぇっ」

意図せず妙な声が飛び出し、慌てて口を押さえた。

「えっと、あのっ、あぁぁぁ」

「動揺してる?」

「あ、当たり前じゃないですか!」

「顔真っ赤にして、ホント、可愛い」

「からかわないでください」

熱い、顔だけでなく全身が熱い。

「返事は?」

「そ、それはいきなりのことで、心が追いついていないと言いますか、なんと言いますか」

「だったら、YESだな」

「どうしてそうなるのですか?」

「恩を返してくれるんだろう?」

「え……」

「さっき挨拶した人、廣藤自動車の会長なんだ。彼の前で宣言してしまったし、君が俺の婚約者だって認識してるはずだよね。君に断られたら、俺、嘘つきになってしまう。恩人にそんなことはさせないよね?」

なんと強引な!

「それは……」

「それとも彼氏いるの?」

「いいえ」

「俺、優良物件だよ」

「優良物件? 先生はものではありません!高椿俊佑さんという素敵な男性です!」

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