星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「昨晩、その……声をかけられまして」
「私からナンパした、と」
「ナンパといいますか——」

 彼は妙にもじもじしていた。童顔のイケメンがそうしていると、それだけでかわいい感じがした。

「ハープを返してもらえなかったものですから」
「ハープ?」
 聞き慣れない単語に、聞き返す。

「楽器のハープですよ」
「吟遊詩人が持ってるやつ」
「また言われた……」
 彼は落胆したようにうつむく。

「それで?」
「最初は置いて行くなって言って、僕のことをなぜかお星様って呼んで、歌うまで返さないってハープを持って行っちゃって、でも家に着いたらすぐに寝ちゃって。僕が出て行くと鍵をしないままになっちゃうし、こちらの部屋をお借りして僕も寝ました」

 自分がそんなことをする人間だとは思わなかった。
 詩季が眉間にしわを寄せると、彼は慌てて付け足す。

「何もしてませんから! そんな勇気ないです」
「わかってる。怒ってないよ」
 人生初の失態だった。今までお持ち帰りをするどころかされたこともない。

 就職を機に一人暮らしをしていた。
 今の地方都市には一年ほど住んでいるが、全国展開している衣料品チェーンだから、全国への転勤がある。
 昨日は転勤の打診があったところだった。

「ごはんのお礼にハープを弾きます」
 席を立つ彼を慌てて止めた。

「騒音はご近所に迷惑になっちゃう!」
「騒音……」

 彼はしょんぼりと肩を落とした。その姿が妙に胸に突き刺さる。が、アパートで彼に弾かせるわけにはいかない。

「カラオケ行きましょう、そこなら防音も効いてるから!」
 詩季が言うと、彼は弱々しく笑った。

 何か変だ、とは思ったものの、詩季はそれを自分の中で形にできなかった。
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