セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ～能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない～

プロローグ

悪役令嬢、誕生

「黒瀬百佳(くろせももか)。お前との婚約を破棄する。」

　男の声が、脳裏に響く。
　その宣告に人々が息をのむ音までもが、グワングワンと反響している。


「どうして……っ。」

　広間の人だかりの中の、ぽっかりとあいた空間に立つ、女のビジョン。
　男やその取り巻きからの糾弾を一身に受けている、その令嬢は、『黒瀬百佳』だ。


――愚かな、百佳。

　散々にヒロインを虐め、悪事を働いてきたにもかかわらず。
　その結果を受け入れることさえできずに、錯乱している、みじめな姿。


――私は、彼女を知っている。

　愚かな彼女の、この物語を、知っている――。


※※※※


　春の陽気が、心地良い朝。

　産声とともに――、私は、前世で気に入っていた乙女ゲーム『リトル・フラワーズ』の世界の悪役令嬢に転生した。

　その事実と前世の記憶は、まどろみから目覚めるように自然に、私の中に融けこんだ。


　ゲームの舞台は、上流階級御用達の超セレブ校の、高等科。

　裕福とは言えない出自のヒロインが、奨学生として入学し、攻略対象者を魅力していくストーリー。

　その過程でヒロインを虐め抜く、悪役令嬢の筆頭。それが私――、黒瀬百佳だ。