セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
「これ、使って下さい。」

 私は少しばかりの上目遣いとともに、ハンカチを差し出した。
 しかし、ハンカチを渡そうとしたその手は――、スカッと宙を空振りした。


「大丈夫だ。いつもこれを持っている。」

 フッと余裕のある笑いと共に、彼が見せてきたもの、それは――。


 携帯用ウエットティッシュだった。


「……へ?」


 ウエットティッシュ??

「これは、ハンカチよりも、よく汚れが落ちる。――じゃあな。」


 私がポカンとしてる間に、彼は踵を返し、スタスタと歩いていってしまった。
 私のハンカチを受け取らなかった人は、初めてだ。


――で、でも、まあ。会話はしたわけだし! ほぼ成功よね!!


 私は気を取り直した。

 そう。私の物語は、今、始まったばかり――。
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