セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
――きれい。

 夜の海から見る花火は、初めてだ。海には、他にもたくさんの小型船が浮かんでおり、その船の影までもが、一つの絵のように見える。


 思えば、ゲームの黒瀬百佳は。見た目もよくない、性格もよくない、家の財力だけが取り柄の悪役令嬢だった。

 それが、この度現れた、紗和子さんときたら。見た目も良い、性格も良い、もちろん家の財力も家柄もバッチリの、パーフェクトレディだ。

 ヒロイン・愛花ちゃん的には、ゲーム中の百佳に勝つよりも、ずっと大変な展開になったのではないだろうか。


――それにしても、佐々木くんは、空気になってたなあ。

 参戦しなくて良いのかな、と思いながら、私が佐々木くんの姿を探していると。船の端の方にいるおばあさんが、しんどそうに立っているのに、気が付いた。


――あれは、杵築のお祖母さんだ。

 たしか、右足が悪いとの情報が書いてあったはず。船が揺れているのに、掴まる手すりが低過ぎるから、立ちにくいのだと思う。


 気の毒なので、私はお祖母さんの右側に立って、花火を見ることにした。

「良ければ、肩か腕につかまって下さい。」

 お祖母さんは驚いた顔をした後、「ありがとうございます」と私の腕につかまった。


 花火は、見飽きることがない、美しさだった。
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