セレブ御曹司の恋を遠巻きに傍観するはずだったのですが。 ~能面顔の悪役令嬢は、それでも勘違いに気付かない~
――さて、私については。


 一度、これだけの醜聞が流布されたのだ。杵築との婚約話は、なし崩し的に、いったん白紙に戻っている。
 杵築の両親は、話を進めたかったようだけど、結果的には、これで良かったのかもしれないと思う。


 生徒会の皆とは、すっかり、以前のような関係に戻っている。ほんの少しだけ、変わったことがあるとすれば――。


 卒業式前の、最後の登校日。

 私は、三杉に呼び出されて、校舎の屋上にやってきた。ふと、並木道の木々が目についた。

 思えば、高等科入学の日に、ここで初めて愛花ちゃんを見つけたのだ。あの日から全てが始まった。

 こんな高校生活が待っているなんて、あのときは想像もしていなかった。


「悪い。遅れた。」


 やってきた三杉が、ポケットから取り出したのは、『黒瀬さんに勉強を見てもらえる券』だった。――これは、夏合宿のビンゴ大会のときに、いつの間にかなくなっていたものだ。
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