『特別な人』― ダーリン❦ダーリン ―
1

◇宣戦布告

「牧野さん、私、向阪 匠吾(こうさかしょうご)さん狙っていきまぁ~す」
 一緒に社食に向かうこの春準社員で入社して来た島本玲子 が
開けっ広げに私に宣言してきた。


『いや、ちょっとそれは…まずいかも。しかし最近入ってきた人には
分かンないよね~』と心の声。


「水を差すようだけど向阪くんに彼女いる可能性は考えないの?」

「彼、独身ですよね?」

「ええ、まあ、独身だと思うわ」



「じゃあ、もし彼女がいても無問題ですよ。

 結婚がゴールだとしたらそこに辿り着くまではマラソンみたいなものだから  
 一番にゴールした者の勝利ってことで。

私の前に1人2人走ってたって平気ですよ。
 ゴールのラインはまだ誰も踏んでませんからね」


「島本さんって積極的なのね~」


「私もう29才、いわゆる崖っぷちっていうやつなので、
大人しくしていたら永遠に独身まっしぐらですもん」



『島本さん綺麗だから今までチャンスは幾らもあったと思うんだけど、
高望みし過ぎたとか? 

 20代で綺麗で積極性があって、なのにどうして今だに独身なのかしら、
と訊いてみたいところだけど、きっとここは踏み込んではいけないところよね』

 ―――――

向阪くんが掛居 花 (かけいはな)ちゃんと仲いいことは周知の事実に
なっている。

 中には知らない者もいるだろうけれど、ほとんどの者が知っている。

 ほぼほぼ公認の仲っていうヤツよ。


 29才独身はやはりパートナー狙いで入社してきたようだ。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 実は彼女の採用時の最終面接にはうちの課の仕事の補佐をお願いするものだから課長、係長
そして私と3人が人事課以外からも面接の場に立ち会っていた。


 今回の応募者は20代前半の人が大半で20代後半は島本さんひとりだった。


 経理経験者は彼女ともうひとり40代既婚の人がひとりだけ。

 課長と係長は仕事ができることと見た目で、島本さん即決だった。

 私は正直40代の女性とどちらにするか迷った。

 結局私も島本さん推しということで彼女に決まったわけだけど、
私ひとりがあの時40代の女性を推していても数の論理でいくと
結局島本さんだったのよね。


 仕事ができる人は恋愛もそりゃあ積極的だわよね~、そうじゃない人も
いるけど。

 
< 1 / 133 >

この作品をシェア

pagetop