きっかけ【短編】
第一章 初恋の人
 小さい頃一緒にいた男の子が遠く感じるなんて、そんなの珍しい話じゃない。


 いつも彼は目立っていた。


「巧だ」


 あたしの前の席の朝子が甘ったるい声を出した。


 あたしは何となく外を見た。


 昔とは変わったけど変わらない彼の姿がそこにある。


 明るく染めた茶色の髪に、長身の男の人の姿がそこにあった。


 あたしは机の上にある問題集に視線を戻した。


 そんなことより次の授業の数学の宿題だ。


「小春は冷たいよね」


 からかうようにあたしに言う朝子。


「別に」


 あいつを意識なんて絶対にしない。あいつはあたしにとって背景と一緒だ。


「昔あんなに仲がよかったのにね」

< 1 / 22 >

この作品をシェア

pagetop