犬神君 ✕ ヤンデレ

敬語使えたのかよ。





キリトや由瑠と話していたら、担任が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。

 担任は、いつも無表情だが整った顔が一部の生徒に好評な若い男の教師だ。



「皆さん、おはようございます。
 もう既に顔合わせはしているでしょうが、今日から転入生が入ってきています」



 チラ、と隣の席のキリトに視線を投げかけた担任。



「キリトさん、挨拶はできますか?」
「はい」



挨拶を促され、キリトは席を立った。
僕はキリトの発言に石化する。
お前敬語使えたのか…!
僕には1ミリも使わないくせに。
やはり舐められている、と屈辱を感じた。



「初めまして、キリトです!
 咲耶様の護衛として入学しました!」



 ニコニコと明るい笑顔を振りまくキリトにクラスメイトは驚いた顔をして、ザワザワしだした。
 夜這いした時のアイツは幻覚かと思うくらいに別人を見ているような気分だ。
 由瑠を除いては誰もコイツが元暗殺者だとは思うまい。


…てか、今、初めて名前で呼ばれたような。
まぁ、いいか。


 僕は何も考えないようにして、すまし顔を崩さず前を向く。


…由瑠も言ってたが、護衛とか小中高いなかったもんな。
 別に、護衛なんていなくても生きてはいけるんだけど。


 キリトは挨拶を終えると即座に席に着き直した。
 おい、褒めてもらいたそうに僕の方を見るのやめろ。


担任は話を続けた。


「キリトさんは転入生ではありますが、基本的に授業やテスト等は免除されます」

「「えぇえ!?」」



 通常ならば有り得ない待遇にクラスメイトがどよめく中、担任は「静かに」と低音を放つ。



「彼は既に高等学校までの知能を持っており、能力のコントロールもほぼ完璧です。
 よって、彼にはTA…補佐役を担ってもらうつもりです」



 担任の言葉にクラスメイトは呆然とした顔をしてキリトを見ていた。

 僕は、キリトの詳しい経歴は知らないが知能や能力値は何となくわかっていたから特には驚かなかったけど。
 多分、マフィア1の強さだけあって、相当な訓練や学業を熟したのだろう。
 キリトは朗らかな笑顔を保ったまま、何も言わなかった。



 「ご主人様の能力ってどんなの?」

『…何だよいきなり』



 授業の一環である能力コントロールの訓練の室へ向かう途中でキリトは尋ねてきた。
 質問に質問を返すと、キリトはキョトンとして言う。



「いや、単純に気になって」



 突拍子もなく能力を知りたくなるとは、随分と好奇心旺盛な奴だ。
 僕としてはここで見せても構わなかった。 しかし、この後の授業で遅かれ早かれ能力を使うなら今でなくとも良いと判断した。



『…これから見ればわかるだろ』

「あ、そっか」



 僕の答えにキリトは一瞬目をまるくして、直ぐに納得した。

 …コイツ頭良いくせに変なところ抜けてるんだよな。
 楽しみだな、と口元を緩めるキリトを横目に廊下を歩いていった。



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