アマノカワ
第三章 命より燃えるもの


 そのときの俺は、案外冷静で物事もゆっくりとみえていた。

 割れた窓ガラスにいくつか傷をつけられ、地面へと降りる。

美しい剣を携えながら。

 川の方へと走る俺をみて、母はほとんど泣いたような状態で必死に引き止めていたが、ゆっくりとふり解きどんどんと加速しながら走り去った。

 みると、そこにあるはずの川は一面綺麗な氷になっていて、うっとりとみ惚れてしまう程だった。

ただそのまわりは恐ろしい程の惨状で、飛び散る四肢と血肉と、燃え上がる炎が氷にそれを映し出していた。

 どうやら奇襲をしかけたのは俺の住む町、天野町の方だったらしい。

前線をみると明らかにこちらの方が押している。

 別に俺は戦にもぐりこみたいわけでは無い。

近くに君がいなければいいんだ。そうすれば俺もただ逃げるだけでいい。

そうなることを願いながら川の手前までくると、また雪が降り出して、木造の家に燃え移った炎に灰のように消されていった。

 その瞬間胃が収縮して、俺は身体全体を強ばらせた。
< 20 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop