お前の全てを奪いたい【完】
 煌びやかなネオン街。

 週末の夜ともなると、より一層賑わいを増している。

 忙しなく帰宅を急ぐサラリーマン、夜遊びしたいが為に着飾って大人ぶってる子供たち。

 カップルと思しき男女も様々で、ナンパして捕まえてきたのか明らかにちぐはぐなカップルや、犯罪臭漂うくらいに年齢差のあるカップルなど、夜のネオン街は見ているだけでも退屈しない。

 そんな人間たちを店の壁に寄り掛かりながら観察して煙草を吹かしていると、ズボンのポケットにしまってあったスマホが震えた事に気付く。

 スマホを取り出して視線をそちらに移すと、そこには【真美】と表示されていた。

「もしもーし」

 少し面倒に感じつつも電話に出ると、

(せり)~! え? もしかして待っててくれたの?」

 電話の向こう側と同じ声が横からも聞こえてくる。

 やって来たのは濃い化粧に胸くらいまである明るめの茶髪をしっかり巻いて、派手で長い爪と無駄に露出の多い服を身に纏った一人の女。

 俺を『芹』と呼びながら猫なで声で近寄ると、当たり前のように空いている左腕に自身の腕を絡めてくる。

(……相変わらず、香水キツすぎ)

 ピッタリとくっつかれた俺はそんな感想を抱き、内心ウンザリしつつもそれを表情には一切出さず、寧ろ満面の笑みを彼女に向けた。

「当然だろ? 真美(まみ)、仕事お疲れ」
「ありがとぉ、芹~。今日も沢山、芹の為にお金使うからね♡」
「無理はすんなよ? いつも言ってるけど、真美の顔が見れるだけで俺は嬉しいんだからさ」
「やだぁ~もう! 芹ったらぁ」

 俺の歯の浮くような台詞に頬を赤らめ、瞳の奥にハートを浮べながら喜ぶ真美は終始幸せそうだった。

(本当、女は馬鹿で単純だ。笑顔を向けてちょっと甘い言葉を掛けてやれば、すぐに騙されるから)

 言葉とは裏腹に辛辣な思いを心の中で呟いた俺は右手に持っていた煙草を地面に投げ捨て、吸殻を靴で踏み潰した後、真美と共に店内に入って行った。
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