Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
15. ビター・バレンタイン

【ごめんな、一緒に見舞い、行きたかったんだけど】
【もうすぐ試験なんだし、しょうがないよ。手術は無事に終わってるんだから、お見舞いが少し遅くなったっておばあちゃんなら気にしないって】

【ばあちゃんによろしく言っといて。試験終わったらすぐ行くからって】
【うん、伝えるね。気にしないで、試験に集中して】

【そうそう、そういえば! 義兄さんに姉ちゃんからもお礼言っといてくれよな】
【え? クロードさん?】
【自分が使ってたテキストとか、参考書とか、めっちゃ差し入れてくれたんだよ。マジで神】
【そうなんだ】
【ほんと、姉ちゃん最高の王子捕まえたよなー。最初は絶対騙されてるって思ったのに。絶対離すなよ。あんないい旦那、二度と見つからないからな?】

次に打ち込むメッセージに困って、スマホ画面の上で指がピクリと止まる。

柊馬にも言えないよね。離婚のこととか、もろもろ……。
とりあえず今は留学に集中させてあげたいし、伝えるのは渡米後でいいかな。

心の中でつぶやきつつ、お気に入りのゆるキャラ、マロマロンが照れ笑いしてるスタンプを送って、誤魔化しておく。

ちょうどそこへ、目的地への到着を知らせるアナウンスが電車内に響いた。

【そろそろ駅に着くみたい。じゃあね】
【ん、病院で迷子になるなよ!】
【なりません!】
【レコーディングしてから行けよ!】
【わかってます!】

スマホを見つめて、ふぅと吐息をつく。

最後のは、お父さんお気に入りの隠語。
レコーディング→録音→音を入れる→おトイレ、なんだって。

あんなふざけたダジャレ好きのおじさんが、こぉんなミスユニバースレベルの美人と付き合ってたなんて。

スマホのケースから、栞と一緒に取り出したのは、1枚の写真。
桜木さんからもらってしまった、クロードさんのお母さん、かもしれない女性の写真だ。

もちろん、似てるというだけで断定はできない。

クロードさんには、日本のご両親だっていたわけだし……

ただ、それが実の両親じゃなかったということなら、学くんが話してくれた彼の子ども時代の境遇とか、家族を捨てて渡米した理由がなんとなく理解できるような気がする。


――職員室で先生たちが噂してるのをチラッと聞いたことがあるよ。あいつ、家の中で孤立してたらしい。家族が弟の方ばかり可愛がって、各務のことは腫物に触るみたいに扱ってたって。

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