Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「よくないっ! 全然よくないです!!」
引き剥がそうとするのに、思いのほか強い力で掴まれていて解けない。
どうしよう。
どうしよう。
とにかく血を止めなくちゃ。
彼の手を剥がすことは諦め、そのままコートを脱いで、無我夢中で染みへそれを押し当てる。
すぐに白いコートが真っ赤な色で染まって……心臓が、氷室に放り込まれたみたいに凍り付く。
「やだ、やだクロードさんっ!」
「まりか……わらって、くれ……」
「こんな時に笑えるわけないじゃないですかっ!」
叱るように言うと、血の気を失った唇がふんわりと弧を描いた。
こんな状況なのにその表情は色気すら纏い、満足そうにも幸福そうにも見え、一瞬息を止め見惚れてしまった。
「どうかずっと、わら、って。……俺は、きみのえがお、がす……」
微かな声が、ほとんど空気だけになり、聞き取れなくなる。
ずるっと、コートから彼の手が離れる。
重力に負けたみたいに。
ぼたぼたと水滴が彼の顔に降り注ぎ、自分が泣いていることに気づいた。
「やだ、やだよ、私、まだ火事のお礼、言えてな……っ!」
お願い。
お願い、誰か、誰か彼を助けて!
こんな終わりなんて嫌だ。
まだまだいっぱい、話したいことあるのに!
ねぇ逝かないで。
私を置いて行かないでよ、クロードさん!
「クロードさんっ!!」