Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
――ねぇ、なんか雰囲気変わった?
茉莉花との距離を掴みかね、悩んでいた12月初旬。
そんな風に言ったのは、SDのミーティングのために待ち合わせたユキだった。
渋谷で俺の車に乗り込んでくるなり言われて、面食らった。
――そうか? 気のせいじゃないか?
――違うって! ほらこの前拓巳たちに会ったじゃない? みんなも「キングが丸くなってる! 一体何があったんだ」って大騒ぎよ。
そちらへ身を乗り出して、差し出されたスマホを一緒にのぞきこむ。
そこには大学時代のシェアメイトたちから、「妻効果、すごいな」「猛獣使いね」「キングの妻、やっぱり可愛い」などと言いたい放題のメッセージが……。
ウェディング写真なんか見せるんじゃなかった。
柄にもなくデレていた自覚はあるが。
そうだな、確かに俺は変わった。
この性格のせいか、学生時代のニックネームはキング。
社会人になってからも、仕事の進め方が独善的だとかで“暴君”だの“冷酷上司”だの影では散々言われてきた俺なのに。
思いがけず最愛の人と再会できて、戸惑いつつも、浮かれてしまう気持ちを止められない。
彼女が笑うだけで世界が薔薇色に染まって見えて、尖っていた気持ちも凪の海のように穏やかになってしまうんだ。
自分もごく普通の男だったのだと、何度痛感したことか。
そうして、幸せを感じれば感じるほど、彼女がいつか別の男を愛してしまったら、愛想をつかして出て行ってしまったら……そんなネガティブな未来を恐れるようになった。
何しろ新婚なのにセックスレスで、かつ留守がちで。
しかも俺は「好き」だの「愛してる」だの、そんな言葉を一度も口にしないという薄情ぶり。
離婚したいと彼女が思ったとしても責めることなんてできない。
でも仕方ないだろう? もし彼女が「私も愛してる」なんて答えてくれたら、自分を抑えられる自信が1mgもないんだから。
こんなことなら、最初から割り切った契約結婚ということにしておけばよかったと後悔した。
最初は結婚を承知させることに集中しすぎて、承知させたらさせたで舞い上がりすぎて、その後の生活についてはなんとかなるだろうという程度の見切り発車だったのが原因。
いつもはちゃんと働いてくれる思考回路が、なぜか彼女に関する限りバグを起こしてしまうのだ。情けない限りだが。