年下ヤンキーをなめちゃいけない理由

距離





「あー、こーゆーこと?」

「そう!すごい、どんどんわかるようになってる」


文化祭から数週間が経った頃。

「テスト、できそう?」

「……できる」

あれから私と流くんに、特に変わったこともなく、今日も放課後、空き教室でワークやノートを広げていた。

……でも。


「あ、髪にゴミついてるよ」


少しでも私が流くんに近づこうとすれば___。




パッと避けられる。



「あー……すいません、俺、教室に赤ペン忘れたんで」


取りに行ってきます、そう言いながら私に背を向けてしまう。

そう、あの日からだ。どこか、流くんとの距離を感じるようになってしまったのは。
なんで、私、何かしたの?


街灯に照らされて見えたあの表情がずっと、頭の裏にこびりついて離れない。


「すぐ戻ります」


「……うん」


流くん、ほんとに嘘が下手だなぁ。
赤ボールペン、ちゃんと筆箱に入ってるの、見えてるよ……。

正体すらわからない不安を、どうすればいいかもわからなくて。

どんどん心の内側に溜まっていって。


「……どうしちゃったんだろ」


いつのまにか、涙の膜がうっすらと張っていることに気づく。
最近の私、本当に変だよ……。

流くんのことばっかり考えて、勝手に不安になって、泣きそうにまでなって。


彼に対して、一喜一憂している自分がわからなくなる。


今まで、こんなことなんてなかったのに。


彼のワークにわかりやすく図や式を書き込みしていたペンを持つ手が、行き場をなくして。

コトンとボールペンを置くと、そのまま腕を枕にして突っ伏す。


話しかけても、ワンテンポ遅れて返ってくるし、その返事もどこかそっけない。まあ、そっけないのはいつものことなのかもしれないけど。

そして、あまり笑ってくれなくなってしまった。


やっぱり、文化祭の日からどこか変。


勉強を教えている毎日だって、今日みたいに、雑談なんてないし、範囲を教え終われば、流くんは私に「さよーなら」とだけ言って、すぐに帰るし。


またあの時みたいに、一緒に帰ってくれてもいいじゃんか……って。

毎日校門を通るたびに、もしかしたら流くんが私のことを待ってくれてるかも……って。



わがままな自分がちょっと嫌い。



そんなことを思っているうちに、頭の中がふわふわと浮いているような感覚になってきて。


やば……最近、夜更かしているからかなのか、睡魔が私を包むように眠りに誘い込む。


寝ちゃいけないのに……。

まだ流くんに教えるところ、残ってるのに……。


なのに、勝手に閉じていく瞼。遠ざかっていく意識。力の抜けていく身体。


私は、吸い込まれるようにして眠りの世界へ落ちていった。




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