一夜限りだったはずの相手から、甘美な溺愛が止まらない。



 こんなにも激しく求められたのは、いつぶりだろう。


 私に触れる指先から、愛を感じた。抱きしめられる強さに、優しさを感じる。

 何より彼から伝わってくる体温に、どうしてか、すごく安心できた。


 いつだって自分勝手に私を抱いて、愛を捧げあうための行為ではなく、ただの性処理の道具として夜を共にしたがる彼氏……じゃない、元カレとは大違いだ。


 『お前といても楽しくねぇんだよな』

 『本当にキミはデキの悪い秘書だねぇ』


 『浮気って、される側にも問題があるって思わねぇの?被害者ヅラすんなよ』

 『キミみたいな仕事のできない秘書の代わりなんて、いくらでもいるんだよ?』


 『……別れる?好きにしろよ。どうでもいい』

 『この会社を辞めさせられたくなかったら、何をしたらいいのかよく考えなさい』



 ――あぁ、嫌だ。思い出したくない。

 行きつけのバーではじめてのやけ酒をして、たまたまとなりに居合わせた男性に声をかけ、酔いが覚めないまま彼を外へ連れ出した。


 決して褒められた行動じゃないかもしれない。

 だけど今は、今だけは……この夢のような一夜に、もう少し溺れていたい。


 今夜限りの、甘い、甘いワンナイトを、まだ終わらせたくはない。

 目が覚めたら、また最悪な現実にちゃんと戻るから。


 ……そう、思っていたのに。

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