起きられないモーニングコール、眠れない夜カフェ。
「はい……あのっ……これ、お礼です。少ないんですけど」

 私は鞄から取り出した二枚の紙幣が入っている茶封筒を、彼へ差し出した。

 店で眠りこけ彼の寝場所を奪うという、とんでもない迷惑をかけた上に、寝坊をしたため大事なプレゼンに遅刻寸前だったから、お礼もろくに言えなかった。

 ここは金額で、誠意を見せるしかない。

「あー、要らない要らない。今朝も言ったけど俺はこのビルオーナーで、酔って眠ってしまった女の子を助けたからと、善意の行動に報酬が欲しいなんて望んでいない」

 彼は頼んでいないケーキとカフェオレをオーダーすると、いつもは私が座らないカウンターへと誘導しながら、差し出された封筒を柔らかい言い方ながらも頑なに受け取らなかった。

「本当に、ごめんなさい……出来れば、何かお礼がしたんですけど……」
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