好きになってはいけない

第2話ーBeyond timeー

 噴水で彼に会って、数日が経った。

 会った、と言う表現は間違っているかもしれない。

 でも他にどう言えばいいのか、わからなかった。

 もう一度、あの噴水へ行ってみようか。

 あれから何かと忙しく、余計な私事を済ましている暇はなかった。

 夢の中にも、彼は現れなかった。

 今ならちょうど、少し時間が空いている。

 クローゼットから上着を取り出し、銀の細いダガーを脇に忍ばせた後、私は扉に手をかけた。

「あっ」

「シーラ」

 彼女はちょうど扉を押そうとしていたのだろう。

 私が扉を引いたことで、行き場を無くした手がバランスを崩し、よろめいた。

「おっと……危ないな」

 倒れ込んできた彼女の身体を、上着を持っていた左腕で受け止め、右手で彼女が抱えていた書類を受け取る。
 
 彼女は慌てて私から身体を離し、すみません、と私が受け止め損ねた書類を拾い集めた。

「どうしたの」

 全ての書類を受け取り、軽く中身を確認する。

「アロイス殿下が、レジス様に、と」

 中身は私の領地の資料と、アロイスの領地の資料だった。

 僅差ながら、領地民から取った作物の収穫のアンケートの数値が私の方が劣っている。

「挑発か」

 机に書類を無作法に放り、私はくす、と笑った。

 こんなことしなくても、このままいけば彼が王位を継ぐだろうに。

 例え従兄弟の彼より、現国王の子供である私の方が有利に見えても、所詮私は……私では。

 自嘲するように、小さく笑いが漏れる。

 シーラが顔を伺うのがわかった。

「レジス様、これから外出なさるところでしたか? どこかへいらっしゃるなら、ユリカを呼びますけれど」

「ああ、いや、中庭まで出ようと思っただけだから」

 従者を呼ぼうとする彼女を制し、持っていた上着を羽織った時だった。

 ちょうど、今シーラが呼ぼうとしていたユリカが、珍しく焦った表情で廊下を走ってくる。

「ユリカ?」

「レジス様! あの、今、中庭で……っ」
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