ホウセンカ
ヒマワリ微笑むあの丘で
 桔平くんは、誕生日にプレゼントしたカードケースを大切に使ってくれている。定期的に拭いたりクリームを塗ったり、長く使えるようにちゃんとお手入れして。とっても丁寧に扱っているのを見て、私自身を大事にしてくれているみたいで嬉しかった。

 クリスマスに贈ったピアスも出かける時には必ずつけてくれているし、少しずつ“特別な物”が増えている感じ。

 桔平くんと出会って好きになって、想いが重なったあの日から1年。たった1年で、たくさんの思い出が積み重なっていた。

「記念日なんて、毎回祝うのめんどくせぇよ」

 そう言っていた桔平くんだけど、1年に1回ぐらいならいいんだって。だから付き合い始めた日からちょうど1年の6月14日は、ちょっと贅沢をしてディナーを食べに行った。

「記念日増えんのも面倒だし、入籍する日は6月14日にするか」

 美味しいフレンチを食べながら桔平くんがさらりと言った言葉は、とても嬉しかった。

 少しずつ、でも着実に、未来へ進んでいる気がする。良いことばかりじゃないのは分かっているけれど、桔平くんと一緒なら大丈夫。絶対に、どんなことでも乗り越えられる。乗り越えてみせる。
 そう思えるくらい、桔平くんを心から信頼していた。

 そんなある日、お父さんから電話が来た。
 
「中学校の同窓会?」
「今日、案内のハガキが届いていたんだよ。一応どうするか訊いておこうと思ってね」

 “一応”と言うあたり、行かないだろうと思っているんだよね。もちろん、行くはずない。行ったって、楽しいわけないもん。

「ちょうど、愛茉たちがこっちへ帰ってくる日程と重なっているみたいだよ」
「行かない」
「そうか。じゃあ欠席で返信しておくから」
「……本当は返信するのも、何か嫌だけど」
「それだと、幹事の子が困っちゃうだろう」
「うん……じゃあ、お願いします」

 幹事が誰なのかは知らないけれど、欠席の返事を見て「やっぱりな」って思われるんだろうな。

 中学では、別にいじめられていたわけじゃない。ただひとりぼっちだったってだけ。おかげでどこへでもひとりで行けるようになったし、誰かを憎んだり恨んだりなんてしていない。

 だけど良い思い出もまったくなくて、どこを歩いても真っ暗という、とても辛い時期だった。

 ああ、やだな。思い出したら、なんだか気持ちが暗くなってきた。夕ご飯作らなきゃいけないのに。やだやだ。

「ただいまー」

 玄関から聞こえた声で、一瞬にして気分が上がる。やっぱりタイミングがいい。
< 233 / 408 >

この作品をシェア

pagetop