ホウセンカ
おまけのおはなし「カラフルな景色」
 あたしの日常に突然現れたカラフルな人。名前は、浅尾桔平さん。

 最初は怖くて冷たそうな人かと思ったのに、よく見るとすごく穏やかで澄んだ目をしていて、あたしみたいな失礼な子供にも真っ直ぐ向き合ってくれた。

 人を見た目で判断したら、絶対にダメ。桔平さんはその良い例だなぁって思う。

 だってめちゃくちゃ派手で奇抜なファッションだったから、最初に見かけた時は“近づいたらヤバい人”って感じで。スケッチブックを持ってたし少し興味を持ったけど、当然話しかける勇気なんてない。

 それなのに何故か気になってしまって、展望台へ行くたびにその姿を探した。だって本当に画家だったら、絶対に話を聞きたいし。どうやったらデッサンが上手くなるのか、何を意識して絵を描いているのか、いろいろ訊いてみたいんだもん。

 そう思いながら展望台に通い続けて10日ほど経ったある日、奇跡的にまた会えた!

 オオカミのような鋭い目つきをしていて、他人を寄せ付けない雰囲気で。まさに“孤高の画家”って感じなのに実際はまだ大学生で、なんとあの藝大生。これは絶対に話を聞かなきゃ!……って思ったのに、無言の圧に耐えられなくなって、つい逃げようとしてしまう。

 でも桔平さんは、そんなあたしを引き留めて真剣に話を聞いてくれた。実は、とっても優しい人なのかもしれない。
 
「人を痴漢みたいに言うんじゃねぇよ」

 あ、笑った。苦笑いって感じだけど。ずっと無表情だったのに、やっと笑ってくれた。

 あれ、なにこれ。めちゃくちゃドキドキする。なんだなんだ。動悸が激しいぞ。あ、あれだ。自分の絵を見られてるからだ。それでこんなにドキドキしてるんだ。

 ……と思っていたのに。おかしい。桔平さんに3つの宿題を出されて家へ帰った後も、あの顔と声が頭から全然離れない。思い出すたびに動悸がしてくる。

 ていうか冷静に考えたら、桔平さんってめちゃくちゃかっこよくない?海外のモデルさんみたいだし。しかも声!声よすぎ!イケボ!

 やばい。これはまさか恋ってやつ?

 いやいやいやいやそんなわけないし!こんな辺境の地にいる地味でダサい女子高生と、都会の香りしかしないあんな素敵な人が恋愛なんて!ない!ありえないし!

 いやでも待って。こんな偶然の出会い、もはや運命じゃない?それにあたしだって、もしかしたら磨けば光るかもしれないよね?
 ……鏡の前で自分の顔をいろいろな角度から見てみたけど、光ったのはメガネのレンズだけだった。どうやっても地味顔。うん、これが現実だ。分かったか三森彩。

 よし、浮かれるのはここまでにしよう。桔平さんは真剣に向き合ってくれてるんだもん。あたしだって、それに応えなきゃ。こんな(よこしま)な感情で、桔平さんの真っ直ぐな気持ちを穢したくないもん。

 だから一生懸命考えた。何となく楽しいから続けていた絵について、本当に真剣に考えた。
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