ホウセンカ
 遠くで微かな物音が聞こえる。うっすら目を開けると、人影が見えた。
 
「ごめん、起こした?」
「何時……?」
「3時過ぎ。まだゆっくり寝ときな」
「おトイレ……」

 あれ、ベッドの端が遠い。メガネどこだっけ。いいや。トイレ行くだけだし。

「そっちじゃねぇよ。寝ぼけてる?」

 腕を軽く引っ張られる。そこで、だんだんと目が覚めてきた。眼前には桔平くんの顔。髪が濡れていて、上半身は裸……って、裸!?

「ん?目ぇ覚めた?」
「さ、覚めた」

 そうだった。自分の家じゃなかった。
 桔平くんはシャワーを浴びてたのかな。濡れ髪に半裸って、寝起きには刺激が強すぎる……けど、つい見てしまう。ああ、なんでメガネかけてこなかったのよ私は。

「ほら、メガネ」

 桔平くんがメガネを手渡してくれた。やっぱりエスパー?
 これでハッキリ見えるけど……やばい。色気がやばすぎる。ダメ、やっぱり刺激が強すぎて直視できない。心臓がもたない。

 逃げるようにお手洗いへ行って戻ってくると、桔平くんは白いTシャツを着ていた。ホッとしたような、残念なような。

 でもスタイルが良いから、シンプルな服装でもかっこいいな。家では派手じゃないんだ……と思いきや、下に履いているのは艶やかな和柄のワイドパンツ。やっぱり、どこかしらは派手なのね。

「課題は終わった?」
「ああ、終わったよ」
「じゃあ、もう寝るの?」
「なに、添い寝してほしい?」

 あ、そっか。一緒のベッドで寝るんだから、そういうことよね。……考えたら緊張してきた。眠れるのかな。

「先に寝ときな。オレはもう少し起きてるから」

 私の緊張を感じ取ったのか、優しく頬に触れながら桔平くんが言った。
 触られると、ドキドキして胸がキュンとなる。これって、いつか慣れるのかな。慣れたいような、慣れたくないような感じ。

 ベッドへ戻ったものの、桔平くんがいつ寝るのか気になって、なかなか寝つけない。

 桔平くんはキッチンのカウンターで何かを飲んでいる。薄暗いし裸眼だからよく見えないけれど、お酒かな。物思いに耽っているように見えて、やっぱり指はパタパタ動いていた。グラスを傾けると、カラン、という氷の音が静かな部屋に響く。絵になるし、すごく大人っぽい。

 私がじっと見ていることに気がついて、桔平くんは振り返った。
< 69 / 408 >

この作品をシェア

pagetop