愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 その間内部の間取りを頭に思い浮かべながら、円香が囚われているであろう地下室までの最短ルートを考えていた。

 そして、月が(かげ)り、辺りが薄暗くなった瞬間を狙って建物内に侵入した伊織は地下室へ続く階段がある書庫へと向かって行く。

 隠し扉から隠し通路を通り、警戒心を持ちながら足を進めて行くと奥の方に鍵の掛かったドアが現れた。

 ドアには南京錠が二つ掛けられていたが、ピッキング道具を取り出した伊織は手際よく鍵を開け、重く硬い扉を少しずつ開いていく。

 一方円香は、颯が地下室に顔を見せる事に怯えていた。

 地下室に閉じ込められてからというもの、一日に一度は必ず姿を見せる。

 それは円香を心配してという訳ではなく、怒りの捌け口に彼女を使う為だった。

 無理矢理犯す事もあれば、ナイフをチラつかせながら怯える様子をひたすら観察したり、鞭で痛め付けて苦痛に歪む表情を愉しむ事もある。

 現に円香の身体には無数の傷が出来ていて、とても痛々しい姿をしていた。

(今日は一度来たから……大丈夫……だよね)

 そうは思うも落ち着かず、安心して眠る事すら出来ない円香は精神的にも肉体的にも限界を迎えつつあった。

 そこへ、鍵が外されドアが開く音が聞こえてくる。

(……え? また、来たの?)

 これからまた何かをされる事を思うと身体が持ちそうになくて、恐怖から円香の全身は震え上がってしまう。

(もう嫌……、来ないで……)

 ベッドの上に座り、布団を頭から被った円香は震える身体を抑えながら扉から目を背ける。

 そして扉が開き、こちらへ向かってくる足音が聞こえると、

「嫌っ! お願いだからもう止めてっ!! 来ないでっ! もう……嫌……なの」

 弱々しい声で、必死に訴えかける円香。

 しかし、そんな彼女の声に答えたのは、

「円香、落ち着け! 俺だ!」

 他でも無い、伊織だった。
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