愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「……っく……」
「伊織さん……?」

 全ては一瞬の出来事で、円香を始め忠臣と雷斗ですら何が起きたか分からない状況だった。

「伊織?」
「どうしたんだ?」
「…………っ、…………ごほっ、……げほっ」

 異変に気付いた忠臣や雷斗が声を掛けると、円香から顔を背け、苦しそうに咳き込んだ伊織の口からは血が吹き出し、円香を抱えたままその場にしゃがみ込む。

 そして、地面に降ろされた円香は目の前で血を吐きながら伊織が倒れるのを目撃して彼が撃たれた事を知ると、

「い……いやぁぁぁぁ! 伊織さん! 伊織さんっ!」

 悲鳴に近い叫び声を上げて彼の身体を必死に支えていた。

「クソっ! どこのどいつだ!?」
「雷斗、それよりも今は伊織の手当てが先だ!」

 忠臣はすぐに救急車へと彼を運び、誰が撃ったのか突き止めたい衝動に駆られている雷斗は悔しそうな表情を滲ませながら辺りに目を光らせている。

 そして円香はというと、自身の上半身や手にこびり付いた伊織の血を眺めながら、ただ呆然とその場に座り込んだままだった。

「雷斗、円香さん、早く乗れ! すぐに病院へ向かう」
「はい! 円香ちゃん、行くよ!? ……ちょっとごめんね」

 忠臣に呼ばれた雷斗は返事をすると、未だ現実を受け止めきれない円香に断りを入れて彼女の身体を抱き上げるけれど、この状況は円香にとってあまりに過酷過ぎたのか、抱き上げられても声を掛けられても無反応のまま。

 そんな彼女は雷斗たちと共に救急車で警察病院へと搬送された。

 病院に着くとすぐに手術室へと運ばれた伊織。救急隊員の見解では、かなり危険な状態だという。

 円香は別室に運ばれ脚の手当を受けると、伊織の手術が行われている部屋の前の椅子に座り、ただ一点を見つめたままだった。

 しかし、流石にいつまでも血塗れのワンピース姿のままという訳にもいかず、忠臣が用意させた服に着替えるよう促し、何とか別室に移動した円香は一人になり、渡された服に着替えて再び血濡れのワンピースを手にすると、撃たれた直後の苦しそうな伊織を思い出してしまい、

「いやぁぁぁぁ!!」

 再び大声を上げて泣き出す円香に忠臣は医師に頼んで鎮静剤を打たせ、落ち着かせた彼女を暫く眠らせる事にした。
< 89 / 108 >

この作品をシェア

pagetop