愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「初めまして、伏見 伊織です」
「君が伏見くんかね。警察の方から話は聞いているよ」
「あらあら、なかなかの好青年じゃないの。円香、貴方隅に置けないわね」
「もう、お母様ったら……」

 雪城家に着くと客間へ案内された伊織は円香が両親を引き連れて来るなり珍しく緊張した様子を見せている。

(なんて言うか、円香から話を聞いてた程厳しそうにも見えねぇし、堅物かと思えば母親の方は案外話しやすそうだな)

「まあ座りたまえ」
「あ、はい、失礼します」

 伊織は思う、まさか自分にこんな日が来るなんてと。

 依頼遂行の為にこういう場面に立ち会った事はあるものの、それはあくまでも依頼だから緊張なんてしなかった。けれど今は自分と円香の将来がかかっているので話は変わってくる。

「伏見くんも、一時は大変だったらしいね? もう怪我の方はいいのかね?」
「あ、はい。お陰様で」
「そうか、それなら良かった。しかし、命を懸けてうちの娘を守ってくれて、本当に感謝してもし切れないよ。どうお礼をすればいいものか……」
「いえ、そんな礼なんて……」
「謙虚なところも実に良いな、君は」
「そうですよ、伊織さんはすごく素敵な方なんです」
「円香は余程彼の事が好きなのね」
「はい!」
「お、おい……」

 やはり大切な相手の両親を前にすると本調子にはなれないようで、伊織は終始戸惑い気味だった。

「――それで、円香から大切な話があると聞いていたんだが、何かな?」

 暫くして、円香の父親が本題に入ってほしそうな雰囲気を出して話を切り出してきたので、伊織はいよいよだと心の中で気合いを入れる。

「……急な話で驚かれる事と思いますが、僕は円香さんとこれからの人生を共にしたいと思っています。どんな危険からも守り抜いて必ず大切に幸せにしますので、どうか円香さんとの結婚のお許しを頂けないでしょうか?」

 何度か頭の中でシュミレーションをしていた言葉を繋げ合わせて、円香の両親に自分の気持ちを伝えた伊織。

 その言葉に円香も、

「お父様、お母様、私は伊織さんの事が大好きです。この人となら、一生を添い遂げられると思っています。どうか、お願いします」

 自分の気持ちを両親に伝え、伊織共に頭を下げた。
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