星の花が降る頃に 続編
公園から出て家に帰る途中、部活が終わった戸部君を見つけた。
戸部君は何か考え込んでいて、私には気付いていないようだった。
邪魔しては悪いな、とは思いつつも、戸部君に追いついてしまう。
黙って通り過ぎようとした時、「おい。」と呼び止められてしまった。
「俺やっぱり、夏実とお前、仲直りしたほうが良いと思う。」
いつもとは違う表情でそう言われ、無視することはできなかった。
「明日の放課後、銀木犀のある公園に夏実を呼んであるから。お前が行きたかったら行けばいいし、行きたくないなら行かなくていい。」
戸部君はそう言って、走り去って行った。
その日は少しだけ、戸部君がサッカー部の先輩のように、格好よく見えた。
私はしばらくの間、そこから動くことができなかった。

次の日の放課後、昨日のように少し回り道をして、銀木犀のある公園へ向かった。
私は少ししか悩まなかった。夏実と話すチャンスが欲しかったから。
公園に着くと、銀木犀の木の下に夏実を見つけた。
あの日と同じように、木の下に座って、私を待っていた。
公園に入って、木の方に進む。普通に歩いているつもりだったけど、ゆっくり進んでいるように感じた。

夏実の隣に腰を下ろす。
二人、銀木犀の木の下で、沈黙が流れる。
ここに夏実と二人でいると、中学校に入学する前の、一緒に笑った日を思い出す。
不思議と、気まずくはならなかった。
「あのさ」
意を決したように、夏実が口を開いた。
「私だって、また仲良く話したいって、ずっと思ってた。」
嫌われていたわけじゃない。そう分かって安心する。
「でも」
夏実は顔を上げる。
「でも私は、なかなか話しかける勇気が出なくて。一緒だって分かってたけど、ずっと話しかけてくれるのを待ってた。」

昨日もその前だって、何回も話しかけようとていたのに気付いてくれていた。
もし、私がもっと早く声をかけていたら、すぐに仲直りできていたのかもしれない。
後悔が私を襲う。けれど私のそんな気持ちを吹き飛ばすかのように、夏実が言った。
「銀木犀はまだ葉っぱのままだけど、秋になって花が咲いたら、また一緒に拾おう。それであの日約束したように、香水を作ってみよう。」
夏実は少し微笑んで、私を見た。
なんだか懐かしくて、笑いが溢れる。

夏実と二人、銀木犀の木の下で、あの日のように顔を見合わせて笑った。
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