ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜

第四話 「アトリエの失墜」


 ババロアのアトリエ、工房長室。
 そこにはいつにも増して機嫌を悪くする、工房長の姿があった。

「な、ぜだ……!」

 男は片手で金髪を掻き乱しながら、もう片方の手で出来上がったばかりの錬成物を握りしめている。

「なぜ突然、俺の品がこんなに……」

 瓶詰めにされた傷薬は、溶液(スライム)の粘液を素材にして作られた塗り薬だ。
 錬成術において代表的な傷薬の一つで、素材の入手と錬成のしやすさから低価格での提供が可能になっている。
 加えてババロアのアトリエで作られるその塗り薬は、強力な性質を宿していることで王都内の騎士や冒険者たちの間で話題になっており、低価格に見合わない高い治癒効果が大好評で看板商品の一つになっている。
 もう他のところで同じ商品を買うことはできないと言う者も少なくないとのことだ。
 そのせいでギルド側からも、大量生産は控えるようにと注意喚起を受けるほどで、その事実が広まったことでさらにババロアのアトリエの評価も急激に上がった。
 他の商品も負けず劣らずの強力な性質を宿したものばかりで、それを知った者たちはすっかりババロアのアトリエの愛好家になり、定期的に商品を求めてアトリエにやって来てくれる。
 だが……

◇清涼の粘液
詳細:溶液(スライム)の粘液を素材にした傷薬
   患部に塗ることで治癒効果を発揮する
   微かに清涼感のある香りが宿っている
状態:可
性質:治癒効果上昇(D)

 ここ一週間、ババロアは低品質の錬成物しか作れていなかった。
 あれだけ強力な性質を宿した錬成物を生み出すことができていたのに。
 今まで通り同じ感覚で錬成をしている。
 素材だって間違えるはずがない。
 しかし突然、錬成物に付与される性質のランクが激しく落ちて、そのせいで贔屓にしてもらっている愛好家たちからも手厳しい言葉を頂戴することになった。

『あれだけいい性質の品が置いてあったのに、残念だなぁ』

『これからは別のところで調達しよっか』

 結果、ここ一週間で想定外の数の客たちがこのアトリエから離れている。
 同時に売り上げは滝のような落ち方をして、ババロアの精神はひどく摩耗していた。
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