Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜

プロローグ

 ずっと憧れていた先輩がいた。

 いつも明るく元気な先輩の笑顔を見ると、不思議と力が湧いてくる。

 彼女は生まれつき人を惹きつける何かを持っているに違いない。だから僕もこんなに惹かれてしまうんだ。

 そして僕の心には叶いもしない欲望だけが渦巻いていく。

 例えば『僕だけを見てほしい』ーーそれは叶わない願い。だって先輩には好きな人がいるから。

 『名前を呼ばれてみたい』ーーでも先輩のまわりには常に誰かがいて、僕が入る余地なんてこれっぽっちもなかった。

 だからせめて、その他大勢の中の一人でいいから、先輩の近くにいたかったんだ。

 あなたの笑顔をそばで見て、あなたの声を近くで聞く。それだけで満足感に包まれた。

 だって先輩は僕とは住む世界が違うんだから……欲張っちゃダメなんだ。

 だけどそれこそが先輩が作り上げた虚構だったことに、あの日初めて気がついた。

 あれは卒業式が終わった後のこと。

 僕は聞いてしまったんだーー先輩があの人に告白しているのを。そしてフラれてしまう瞬間まで。

 先輩とあの人は桜の下で笑い合ってから別れた。

 あの人が帰ってしまっても、先輩は桜の下に立ち尽くしていた。いつまでも、いつまでもーー。

 声をかける勇気はないが、放っておくことも出来ずに、ただ先輩を離れた場所から見守るしかなかった。

 だって僕が声をかけたところで、先輩はまた作り笑いをするに決まっているから。

 突然風が吹き、桜の花びらが宙を舞う。その様子に気を取られた時だった。

 大きな鳴き声が聞こえてきたのだ。

 先輩が大きな声で泣き崩れるのを初めて見た僕は、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 きっとこれが本当の先輩。彼女は強いわけでも、元気なわけでもなかった。ただ一生懸命に努力していただけなんだ。

 あの人のために頑張る先輩に、僕は恋をしていたのだとようやく気がついた。

 じゃあ本当の先輩はどんな人なのだろう……そう思うのに、一歩が踏み出せない間に先輩の姿は消えていた。

 明日からはもう先輩に会うことはない。このもどかしい気持ちを僕の心に残したまま、あの人はいなくなってしまったんだーー。
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