トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~【減筆版】

縮まらないディスタンス

 ――就任会見の日の午後から、わたしにはさっそくメディア媒体(ばいたい)の取材申し込みが殺到した。でも貢が秘書として、わたしに負担がかからない程度に数を調整してくれたので、わたしも取材を受けることが苦痛にならずに済んだ。

 新聞社、経済誌、ニュースサイトにTVの取材と媒体は様々だったけれど、わたしはそのどれにも真剣に受け答えしていた。中でもTVのニュース番組の取材では社内の様子も撮影されたので、社員のプライバシーにどこまで配慮してもらえるかが心配だったけれど、放送された内容ではキチンと顔にぼかしが入り、声も変えられていたので「これなら大丈夫だ」とプロのメディアの仕事に脱帽した。

 その他にも、取引先から「新会長に挨拶したい」と詰めかけた重役の方々をもてなしたり、各部署を激励がてら視察して回ったり、様々な決裁をしたり……。会長の仕事は思っていた以上にたくさんあった。そのうえ、忌引きが明ければ学校もあって、母や貢がサポートしてくれなければわたし一人ではとても手が回らなかっただろう。

「――会長、これ見て下さいよ。当分休憩時間のおやつには困りませんね」

 就任一週間後には、給湯室の冷蔵庫の中が取引先から頂いたケーキやスイーツでいっぱいになっていて、わたしも貢にその光景を見せられた時には声を上げて笑ってしまった。

「っていうか、一ヶ月もしたらわたし太ってるかも」

 もしくは血糖値が異常に高くなっているかのどちらかだろう。……それはさておき。

 通常の業務以外にも、わたしには会長としてすべきことがあった。それは社内における、決して少なくはない問題点の改革だ。とはいえリストアップは父が生前しておいてくれたので、わたしはそれに自分で気づいた問題点を付け足してやっていくだけでよかったから、それもあまり大変だとは思わなかった。

 でも――、わたしにはその頃忙しくなった日常とは別にして、ある悩みがあった。それは、想いを寄せている貢との距離がなかなか縮まらないことだった。
 お休みの日を除いてほぼ毎日顔を合わせ、仕事の時も行き帰りの車内でも密室に二人きりなのに、彼はわたしに対していつも一歩引いている感じだった。彼の真面目さはわたしもよく知っているし、そこに惹かれたのも事実。でも、彼の態度からしてわたしに好意をもっていたことは明らかだったんだから、わざわざそれを隠す必要なんてあったんだろうか?

 そんなふうにモヤモヤした思いを抱えながら、一ヶ月が過ぎた頃――。わたしに〈Sコスメティックス〉からあるオファーが来た。

「えっ、春の新作ルージュのCMに出るんですか? わたしが?」
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