トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~【減筆版】

彼のために、わたしができること

 ――こうして恋愛関係になったわたしと貢は、より多くの時間を一緒に過ごすようになった。
 付き合い始める前は、会社帰りにはまっすぐ家まで送ってもらうだけだったけれど、交際を始めてからは一緒に夕食を摂ってから帰るようになったり。土・日のどちらかには二人の都合が合えばドライブデートをしたり。

 そして、わたしが彼を呼ぶ時の呼び方も変わった。仕事の時は相変らず「桐島さん」だったけれど、プライベートでは「貢」と下の名前で、しかも呼び捨てするようになったのだ。
 初めてできた彼氏、それも年上の彼を呼び捨てにするのはものすごく勇気が要ったけど、「貢さん」じゃあまりにも他人行儀だし、彼がそれでいいと言ってくれたので、わたしもそうすることにしたのだった。
 何より年上の彼氏を名前で呼び捨てにすることで、ちょっと背伸びをしているような、自分がほんの少しだけ大人になったようなむず(がゆ)い気持ちになったというのは事実だった。

 それでも会社では、両想いになった日に決めたとおりわたしたちが恋愛関係になったことを秘密にして、あくまで〝上司と部下〟〝会長とその秘書〟としてふるまっていた。もちろんそれだけで隠し通せるとは思っていなかったし(恋愛経験のある彼はともかく、これが初めてだったわたしは)、秘書課には人の恋愛沙汰(ざた)(さと)いお姉さま方がいるので見抜かれていた可能性も否定できないけれど。

 ――そんな中で一ヶ月が過ぎ、世間ではホワイトデーを迎えた。
 バレンタインデーに女性社員からたくさんチョコをもらっていた貢は、きちんと()()()()お返しを用意していた。それをみんなに渡し終えて会長室へ戻ってきた彼は、わたしにも小さな包みを差し出した。

「絢乃さん、バレンタインチョコありがとうございました。これは僕からのお返しです」

 それは赤いリボンで閉じられた、淡いピンク色の不織布の小さな袋。用意する数が多かったのと、相手に気を遣わせないようにという彼の配慮からだろうか。そんなにお金はかかっていないような気がした。

「……えっ? ありがと……。でも、わたしの分のお返しは要らないって言ったのに」

「確かにそうおっしゃっていましたけど、会長の分だけ用意していないとかえって周囲の人たちから怪しまれますので。迷惑とは思いますが、受け取って頂けませんか?」
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