甘美な果実
 めちゃくちゃ。めちゃくちゃ死んでる。めちゃくちゃ。瞬ってたまに面白いよな。めちゃくちゃ。味覚めちゃくちゃ死んでんだ。おもしろ。

 何が面白いのか、少しばかり理解に苦しんでしまった。死んでいることをめちゃくちゃと誇張したのが、紘の笑いの壺に嵌まったのだろうか。めちゃくちゃ馬鹿にされている気がする。めちゃくちゃ。めちゃくちゃ。

「それ以上めちゃくちゃ言うのやめろ。ゲシュタルト崩壊する」

「めちゃくちゃ味覚死んでる上にめちゃくちゃゲシュタルト崩壊」

「うざ」

「めちゃくちゃうざいめちゃくちゃな冗談は終わりにして、めちゃくちゃ飴舐めたくね?」

「どこから突っ込めばいい?」

 それなりに大事なことを明かしたつもりなのに、重くなるどころか軽くなりすぎて、不安の種がどこかに飛んでいってしまいそうだった。

 味覚が死んでいることを本人の口から告白されても、紘の態度は変わらなかった。同情したり、心配したり、深刻になったりしない。それがとてもありがたく感じた。変に気を遣われるよりもいい。

 紘は制服のポケットを弄り、飴を一つ取り出した。彼は飴が好きらしく、日頃からそれを常備している。登校中や下校中のみならず、休憩時間中もよく舐めていた。そして、それでよく友達を餌付けしている。俺もその一人だった。餌付けられた一人。

 かなりの頻度で飴を貰い、与えられるままに受け取っていたが、味覚を失ってしまった今となっては、貰っても美味しく舐めることができない。それをさっき、死と表現して伝えたばかりのはずだが。

「お、イチゴ味だ」

「味覚死んでるって言っただろ」

「めちゃくちゃ」

「それしばらく言うのやめろ」

「まぁ、舐めてみなよ。イチゴ味って思いながら舐めたら味するかも」

「他の食べ物で試したことあるけど意味なかった」

「そっか。考えることは一緒だな」

「でも飴で試したことはない」
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