私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 いい天気ですね。今日はきっと我が家はごちそうですよ。宝来家ほどのごちそうは出ないですけどね。マナーとかめんどくさかったし、庶民サイコー! テレビ見て動画見てぐーたらしながらお菓子食べても怒られません! って、さすがに怒られるか。帰ったら絶対に猫の動画を見るんです! 私は猫派なんですけど犬もいけるくちで。

 ターミナル駅のロータリーで車を降りると、なぜか穂希も一緒に降りて来た。
 かまわず、一鈴は深々と頭を下げた。
「今までありがとうございました」
「必ず君の無実を晴らして迎えに行く」
「必要ないです」
 一鈴は顔を上げて、にっこりと笑った。

 せめて、最後にちゃんとした笑顔を覚えてもらいたかった。へらへら笑いではなく、普通の笑顔を。目じりに涙が浮かぶのを、こぼれないように必死に耐えた。
「一鈴さん」
 穂希が伸ばした手を、一歩下がってかわす。穂希は手を下げ、ぎゅっと拳を握った。
 一鈴は穂希に背を向けた。キャリーをひいて歩き出す。
 背中に穂希の視線を感じたが、振り向かない。涙を拭う姿もみせたくなくて、唇を噛み、ただまっすぐ歩いた。



 一鈴の決然とした背中を見送り、穂希はため息をついた。
 特別だ、と言ったのに、彼女はただ笑うだけだった。
「とんでもない鈍感だ」
 一鈴があえて言葉を遮ったなどと、穂希は思いつきもしない。
 涙をこらえた一鈴の顔が浮かぶ。
「少しでもさみしいと思ってくれたのか」

 何者かが一鈴をはめた。
 玉江を問い詰めたいのだが、彼女は早朝に宝来家を出てしまっていた。
 恭子が玉江に同情し、一鈴より先に家を出すことで身の安全をはかったのだという。
「それでも、一鈴さんがねばってくれたおかげで犯人につながりそうだ」

 玉江の行方はなんとか追えるだろう。事情を聞けば、新たなことがわかるかもしれない。すべてはつながっているように思えてならない。
「一鈴さん、待っていてくれ」
 穂希は鏡のペンダントをぎゅっと握りしめた。
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