私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~


 夜の街は明るくて暗い。
 車の後部座席で、佳乃はぼんやりと外を眺めていた。

 街中にも夜の(とばり)は下りるが、ビルや住宅、外灯の明かりがはかなく抵抗しているように見えた。
 明けない夜はない、という言葉がよぎる。
 佳乃の嫌いな言葉だ。
 夜明けが幸せな保証はどこにもない。いっそ夜のままのほうがどれだけ心が休まるか。苦しいままに夜が明ける。それはもはや絶望だ。
 比喩だとわかっている。苦しい時間にも終わりがあるという言葉だと。それでも、自分を突き放す無責任さを感じてしまうのだ。

「新たな候補が現れたと聞きました」
 小幡祥平(おばたしょうへい)に言われて、佳乃は思考から戻った。
 彼は嶌崎の家に雇われており、佳乃の運転手と護衛を兼任している。
 佳乃は顔を前に向けた。が、運転席の真後ろに座っているから彼の表情は見えない。ハンドルを握る左腕に腕時計が見えた。ルームミラーはデジタルで、後方の映像を流しているのみだ。

「許せません。佳乃様をさしおいて、メイドなんかを指名なんて」
「口が過ぎますわ」
「申し訳ありません」
 小幡は謝罪し、それきり口をつぐんだ。

 佳乃はうんざりしていた。
 最後は親の力関係で決まるだろうに、恋愛結婚の体裁をとるために女を四人も囲う神経がわからない。昔の本当の大奥とは違って制約といえば別邸に男が入れないくらいだが。

 はなから勝負をする気はなかった。コスモに似たものを感じていたが、彼女は新参の味方として参戦を決めたようだ。
 新しい婚約者候補が暴れて長引かせてくれてばいい。

 だけど、と佳乃思う。
 どれだけ抵抗したところで夜の闇までは消せないわ。逆転なんてできないものなのよ。
 窓の外を眺め、佳乃は皮肉に冷笑した。
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