蜜月溺愛心中
椿のお腹が音を立てる。大きな音を何度も立てるお腹をさすりながら、椿は買い物に行こうとスーパーへ向かっている途中に連れ去られてしまったことを思い出した。

「清貴さん、ご飯は食べたかな……」

マンションに帰った彼は、椿がいつまでも帰って来ないことを心配しているだろうか。何か適当にお腹に入れ、寛いでいるだろうか。こんな状況だというのに、清貴のことばかり考えてしまう。

清貴のことばかりを考えていると、あの部屋に帰りたいという気持ちが強くなっていく。清貴と笑い合い、まだ契約した一年も経っていないもののすでに思い出が詰まったあの場所へ行きたいと思う。椿の頭の中に浮かぶ思い出はどれも、幸せに満たされたものだ。

「清貴さん、好きです」

誰もいない部屋の中、椿の声が響く。清貴に届くはずのない告白だ。初めて誰かに抱いた想いは、誰にも聞かれることなく消えていく。

ぼんやりと暗闇の中にある天井を見上げていた椿だったが、リビングの方が騒がしいことに気付いた。言い争うような声が聞こえ、ドタドタと大きな足音がこちらへ近付いてくる。

(もしかして、誰か助けに来てくれたの!?)
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