蜜月溺愛心中
しかし、そんな清貴を育ててくれたのが祖母だったという。学校の行事に必ず顔を出し、時に厳しく、優しく、清貴を育ててくれたそうだ。

「そんな祖母は今、体調を崩してこの病院に入院しているんです。毎日言うんですよ。「お嫁さんの顔が見たい。幸せになった清貴が見たい」って……」

「そうなんですね……」

孫が幸せになる姿を見届けたい。祖母を安心させてあげたい。二人の強い思いに椿の胸が締め付けられる感覚を覚える。しかし、結婚というものは一時の同情などでは決して決めてはならないことだ。

「先生。私と先生はお付き合いをしているわけではなく、出会ったのも数日前でお互いのことをよく知りません。なのに私をお嫁さんとして紹介するなど、おばあ様を騙すことになりませんか?」

椿はそう言ったものの、清貴は「お願いです!妻になってください!」と頭を下げて折れることはなかった。そして椿の現状を指摘していく。

「僕と結婚をしなければ、あなたは退院した後に行く宛はないんですよね?僕と結婚をすれば、僕の部屋に住むことができますし、仕事も朝と夜二度も働かずに済みますよ。お互いにメリットがあると思いませんか?」

騙すことはいけないことだとわかってはいた。しかし、現実を考えて椿は清貴の持ってきた婚姻届にサインしてしまったのである。綺麗事で何とかできるほど世の中は甘くない。
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