蜜月溺愛心中
偽りの結婚、偽りの夫婦、一年で終わる関係だというのに椿はそんなことを一瞬考えてしまった。慌てて首を横に振る。

(ダメダメ!こんなこと考えてちゃ。清貴さんの迷惑になるだけだよ)

そう自分に言い聞かせていたものの、梓たちと暮らしていた時には感じることのなかった温もりや幸せが、椿の心に優しく降り注いで止まなかった。

「最後に寄って行きたいところがあるんだが、いいかな?」

歩いていると不意に緊張したような声で清貴が訊ねる。椿が彼を見上げると、清貴は顔中が赤くなっており、椿は驚いてしまった。

「清貴さん、お顔が真っ赤です!大丈夫ですか?寄って行きたいところがあるのなら、私は全然大丈夫ですが、清貴さんの体調が悪いのなら無理はされない方が……」

「いや、無理はしていない!さあ行こう!」

清貴に手を繋がれ、椿は歩いていく。椿の必要なものは全て買ってもらった。しかし今日清貴は自分のものは何一つ買っていない。

(自分の服を見に行くのかな?)

そう椿は思っていたのだが、清貴が足を止めたのはジュエリーショップの前だった。店内には数人のカップルがおり、指輪を選んでいる。
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