蜜月溺愛心中
律子に案内され、椿と清貴は部屋へと向かう。初めて旅館に足を運んだ椿の間には、旅館の廊下はまるで迷路のように見え、一人だと迷子になってしまうだろうなと思いながら辺りを見回す。

「こちらが、柊様のお部屋となる浅葱の間です」

律子はそう言い部屋のドアを開ける。そこに広がっていたのは、広々とした草原のような畳だった。植物のいい香りが椿の鼻を擽る。

「椿、入ろう」

清貴に促され、椿も部屋に一歩足を踏み入れる。柔らかな畳の感触がどこか心地よく、窓の外には自然豊かな景色が広がっている。

「何かありましたら、何なりとお申し付けください。失礼致します」

律子は二人に頭を下げた後、部屋から出て行く。沈黙が訪れた瞬間、椿はまた別の緊張が生まれてしまった。

(あれ?案内された部屋、これ一つだよね……)

それはつまり、同じ部屋で清貴と二日も眠るということになる。結婚前に性行為はしないと約束を交わしたとはいえ、椿の心臓は自分でもわかるほど大きく鼓動していた。
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