蜜月溺愛心中
夕食を食べ始めてどれほど時間が経っただろうか。日本酒を飲み続けていた清貴の顔は赤く染まり、酔っていることが一目でわかるようになっていた。心配になり、椿は目の前に座る彼に駆け寄る。

「清貴さん、少し飲み過ぎじゃありませんか?」

清貴の目は眠そうにしている子どものようにトロンとしており、「クール」と看護師たちから言われている面影はない。しかし、初めて見る清貴の表情に椿は胸を高鳴らせていた。

「清貴さん?」

清貴の目が椿を捉える。黒曜石のような彼の瞳の中に、戸惑った様子の椿の顔が映っていた。刹那。

清貴の両手が椿の頰を包む。アルコールのせいか、普段の清貴の体温よりもどこか高く感じた。

「椿……」

清貴に艶っぽく名前を呼ばれ、椿の胸が跳ねる。すると、椿の視界いっぱいに清貴の顔が映った。そして唇に触れた柔らかく、温かい感触。キスをしているのだと、椿は数秒かけて理解する。

「ッ!」

自分が望んでいた行為だというのに、椿の顔中に熱が集まっていく。しかし、恥ずかしさから清貴の胸板を押しても、二人の距離はゼロのままだった。
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