オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 ~80億分の1のキセキ~
第五章

幸せな時間




ーー翌日の土曜日。
太陽の隙間から照りつく日差しが身体中の小汗を湧き出して肌にTシャツを吸い付かせる。
今日は二階堂くんとデートで、11時に渋谷のナナ公前で待ち合わせをした。

普段は制服姿だけど、今日は柄シャツでラフなパンツ姿に。
私はバイトを始めてから平日の時間が使えなくなったせいもあってオシャレな洋服を準備する時間がなかったから、今日はベージュ色のTシャツにジーンズ姿。
せっかくのデートなのに、普段着で申し訳なくて頭が上がらない。



「近所を歩くような格好で来てごめんね。オシャレに疎いから可愛い服を持ってないんだ。せっかくのデートなのにこんな服装は嫌だよね。二階堂くんにつり合うようにオシャレをしたかったのに……」



渋谷に遊びに来ているオシャレな人たちを見ていたらつい自分と比較してしまい、虚しくなってしゅんと俯いた。
すると、彼は静かに首を横に振る。



「全然そんな事思わないよ。俺は早川が来てなかったらどうしようかなって、それだけ考えてた」

「えっ……」


「俺、自分に自信がないから来てくれただけでも嬉しかった。でも、早川がデートの為にオシャレをしようと考えてくれてたなんて、もっと嬉しかったよ」



彼は照れながらそう言った。
私は昨晩悪魔と接していたせいか、この言葉が神のお告げのように聞こえていた。

私が求めていた恋愛とはこれよ、コレコレ!!
リア王のハルト……もとい、ヒナタが言いそうなセリフを口にしてくれる二階堂くん。
しかも、容姿に性格。
頭からつま先までパーフェクトなのに『自分に自信がない』なんて信じられない。

もしこれがあいつ(日向)だったら、『俺様とのデートなのにだっせぇ服着てくんなよ』とか、『高校生にもなってスカートすら履かないなんてヤバくね?』とか毒を吐きそう。

やだ、私ったら。
これから楽しいデートが始まるのにあいつの事なんて考えちゃって。
不吉、忘れよ……。


洋品店で買い物をした後はオムライス屋さんでランチ。
その後はペットショップに入って隣の人が抱いていたトイプードルの子犬を抱かせてもらった。
彼が抱いたら犬は両脚を立てて顔をペロペロとなめていた。
犬も二階堂くんのような素敵な人が好きなんだね。

次は電車に乗って原宿へ行き、クレープ屋さんの長蛇の列に並んでアイス入りのクレープを購入。
私たちはわんさか湧き出てくる人の流れに逆らうように歩き出した。
すると、彼は突然プッと吹き出す。



「そう言えば、早川ってバイト中によく小さい子にカエルの被りものを奪われてたよね」

「え〜っ。そんな所まで見られてたの?」


「『返して〜』って声を上げながら走り回ってた姿が印象的だった。ピンチな時って素が出るから、あれが早川の本来の姿なんじゃないかってね。学校ではおとなしい印象だったけど、どんな子に対しても優しく接してたのを見ていたせいか、気づいたら興味が湧いてた」

「二階堂くん……」


「だから、早川の事をもっと知りたい」



彼は絵に描いたような理想の王子様で、私の価値観を大切にしてくれる人。
そして、自分の考えを押し付けない人。
一緒にいると心地良いから、このまま好きになりたいな。



ーーそれから7時間後。
場所は自宅で学習机のイスに座りながらスマホを手に取ってリア王を開く。

嬉しさがパンク状態だからヒナタに今日1日の出来事を報告をした。
これが普通の女子なら、友達にLINEで報告したりするかもしれないけど、私の親友兼恋人はヒナタだから迷わず選んだ。

ところが、ヒナタは……。



『なんか、楽しそうだね。俺はユイナに会えるのを楽しみに待ってたのに……』



ネガティブな上にふてくされた表情。
今まで素直に育ててきた分、キャラクターのヤキモチに動揺が隠せなかった。



「ごっ……、ごめんね。確かに、今朝アプリを開いた後は一度も起動してなかった。明日からはもっと小まめに開くから許してね!」



本音を語ってしまったせいか、ゲームのヒナタと微妙に三角関係になってしまった。
AIチャットとの会話にこんなに気を使うなんて……。

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